2015 Fiscal Year Research-status Report
胎児に対する新規の同種異系幹細胞移植システムを用いた治療戦略の創成
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26670515
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Research Institution | National Center for Child Health and Development |
Principal Investigator |
井原 規公 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, リサーチアソシエイト (50425716)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
梅澤 明弘 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 再生医療センター, センター長 (70213486)
阿久津 英憲 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 生殖医療研究部, 部長 (50347225)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 胎児治療 / 免疫寛容 / 造血幹細胞移植 / 先天性代謝異常症 / microchimerism / 非遺伝母由来HLA抗原 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、臓器移植において移植片が非遺伝母由来HLA抗原(NIMA)であればHLA不適合でも生着しやすいことが知られるようになった。さらに、妊娠中に母子間相互に細胞が流入して生後も生着しているという概念(microchimerism)も提唱され、母由来の幹細胞は生後だけではなく胎児期でも有用であることが示唆されている。また、これまで子宮内造血幹細胞移植は臨床では有効でなかったが、マウスモデルにおいて母と異系のドナー細胞に対して母マウス自身に抗体が産生されることが仔マウスでの生着阻害の原因になると報告されたことから、母と同系の幹細胞であれば良好に生着するという仮説のもと、その生着状況と治療効果を疾患マウスで検証した。 具体的には、体外受精および胚移植によってホモのⅦ型ムコ多糖症マウスを妊娠した仮親に対して、母体にとっては同系であるが胎仔には異系である造血幹細胞を妊娠14.5日目に経静脈投与した。ムコ多糖症マウスでは初めて生後に永続的な生着が確認され、さらに骨格改善・寿命延長・生殖能力の回復など顕著な治療効果が確認された。 遺伝性疾患のなかには胎児期から病状が不可逆的に進行するものがある。羊水などから胎児由来の細胞を得て、遺伝子修復・分化誘導・安全性確認などを経ると治療時期を逸するのに対して母由来の細胞であれば、①短期間で移植可能であり、②上記の免疫学的機序により免疫抑制剤なく生着しやすい、③胎児では細胞数が比較的少なくてよい、④癌化しない、などの利点がある。特に造血幹細胞移植においては同じドナー由来の細胞や臓器が生後に再移植可能であり、脳血管関門を通過するなど脳を含む局所で様々な細胞に分化して治療効果をもたらすことは特筆すべき特徴である。 母由来の幹細胞移植の可能性を示し、特に胎児期の造血幹細胞移植がもたらす画期的な治療効果を報告した。大動物での検討および臨床応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先天性代謝異常症(Ⅶ型ムコ多糖症)マウスを用いて体外受精を行うことで、移植するドナー細胞が母と胎仔それぞれにとって同系移植もしくは異系移植となる子宮内造血幹細胞移植モデルを確立した。さらに、ドナー細胞が生着した疾患モデルマウスにおいてドナー細胞の生着率と症状改善の有無と程度について検討を行い、治療効果が十分得られるレベルのキメリズム獲得が可能な治療法の開発につながる成果を示した。 母由来の幹細胞は母体で免疫反応が誘導されず、胎児でも拒絶されにくいことが良好な治療効果につながったように、間葉系幹細胞や胎児由来の細胞は抗原性が低いことが知られ、母由来の細胞の代替として使用できる可能性がある。倫理委員会によって承認された条件で提供されたヒト由来細胞から誘導したiPS細胞や間葉系幹細胞に対して、網羅的発現遺伝子解析(Affymetrix社GeneChipによる解析)ならびにモノクローナル抗体を用いた既知の分子発現解析を行い、ヒト幹細胞(iPS細胞・間葉系幹細胞)の規格化を試みている。使用するモノクローナル抗体は、ヒトES細胞のマーカーとして知られているSSEA分子群、TRA1、Oct-3/-4、STRO-1等の間葉系幹細胞候補マーカーを含む。 さらに、臍帯血・羊水・子宮内膜・月経血・胎盤・脂肪などのヒト組織からiPS細胞や間葉系幹細胞を作製し、その際、ヒト血清ならびにヒト液性因子のみ、あるいは無血清培地を用いた培養法の開発を行っている。異種動物成分を排除したヒト幹細胞培養法・維持法の標準化(完全ヒト型培養システムの開発)を目指している。
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Strategy for Future Research Activity |
マウスモデルで開発した新しい治療法の有効性についてヒツジやブタの胎児移植治療モデルを用いて検討を行う。ドナー細胞抗原に対する免疫寛容について、ドナー細胞抗原に対するT cell レセプターの発現、皮膚移植あるいは臓器移植による拒絶反応の有無などについて検討を行う。 本研究では、ドナー造血幹細胞を胎児期の疾患動物に生着させて直接治療効果を確認、もしくは二次的なドナー由来の間葉系幹細胞の移植により、新しい治療法を確立することが目的である。また、日本人においてはHLAが一致する割合が諸外国に比べて高く、あらかじめ抗原性の低い幹細胞を備蓄しておくという戦略は有効であると思われ、実際、iPS細胞においては現実化されている。胎児期に行われる再生医療に対しては、既に確立されている幹細胞移植を応用する意義は大きい。
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Causes of Carryover |
正常核型を確認するための染色体分析依頼やモデル動物の購入などが予定よりも少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
胎児治療による治療効果について生化学的あるいは分子生物学的手法を用いた検討を行う際の試薬や、骨髄由来の幹細胞(造血幹細胞および間葉系細胞)を用いた細胞治療の応用とその有効性について検討を行うために培地などを購入する。
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Research Products
(2 results)