2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26670675
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
入江 敦 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 主任研究員 (10280786)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 破骨細胞 / リン脂質 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、破骨細胞分化における膜脂質動態に焦点を当て、脂質研究の視点から破骨細胞分化過程における破骨細胞の融合・多核化のメカニズムを解明することを目的としている。破骨細胞分化過程において、リン脂質の一種であるホスファチジルエタノールアミン(PE)が細胞膜二重層内層から外層へ移行し、このことにより膜曲率が変化して破骨細胞融合が促進されることを既に見出しており、PEの移行にリン脂質輸送トランスポーター・ABCB4が関与することを明らかにしてきた。 本年度、PEの動態に関わる分子の探索をさらに進め、ABCB4だけではなく、脂質トランスポーターABCG1について次の知見を得た。破骨細胞分化融合過程においてABCG1の発現が顕著に上昇していた。さらに、ABCG1の発現ノックダウンにより細胞膜外層のPEが減少し、破骨細胞形成が抑制された。これらのことから、PEはABCG1によっても脂質二重層内層から外層へと移行することが明らかとなった。 また、ABCB4とABCG1は破骨細胞融合時の偽足様突起に多く発現しており、その偽足様突起には破骨細胞融合関連分子・DC-STAMPやインテグリンbeta3が共在していた。このことから、ABCB4とABCG1が偽足様突起の形成に関わることによって破骨細胞融合に働いていることが示唆された。 さらに申請者は、脂質代謝酵素の一種であるsPLA2-XIIAについて、本酵素のノックアウトマウスを用いて、K/BxN抗体誘導関節炎モデル実験を行った。XIIA欠損マウスはK/BxN抗体誘導関節炎が減弱することを見出していたが、本年度新たに、XIIA欠損マウスにおいて、IL17産生が著しく減弱していることを明らかにした。このことから、XIIAによる脂質代謝産物がTh17を介して骨関連疾患に関与することが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初26年度に予定していたsPLA2-XIIAの標的リン脂質とその代謝産物の同定は、その評価系の確立に至らず、本年度は遂行できなかったので、来年度に遂行することにした。その代わりとして、当初27年度以降に予定していた破骨細胞融合時の偽足様突起形成に関わる新規分子の探索を前倒しして行い、新たにABCG1が関与することを明らかにした。これにより、従来までに申請者が明らかにしていたABCB4だけではなく、ABCG1とABCB4が協調して、破骨細胞融合過程におけるPEの動態を制御し、破骨細胞融合時の偽足様突起形成を促進することにより破骨細胞形成に関わることが明らかとなり、一定の成果を得ることができた。 さらに、sPLA2-XIIA欠損マウスについて関節炎モデルを用いた解析は、当初27年度以降に予定していた研究であったが、これも前倒しして遂行した。この解析によりsPLA2-XIIAが関節炎において、Th17応答に促進的に働く可能性が明らかとなったので、来年度以降の研究の推進において、Th17を中心に研究を進める方針が立ち、大きな足がかりとなった。 以上のような理由により、現在までの達成度としては、当初計画とは遂行する順序が異なっているものの、概ね当初の計画どおりに進展していると判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
sPLA2-XIIAの標的リン脂質とその代謝産物を明らかにする。手法としては、マウス組織より抽出した脂質を基質とし、リコンビナントのsPLA2-XIIAタンパク質を用いて質量分析プロファイリングにより代謝産物を同定することにより解析する。 さらに、sPLA2-XIIA欠損マウスにおいて、コラーゲン抗体誘導関節炎モデルあるいはコラーゲン誘導関節炎モデルを施行し、足の腫脹や炎症マーカー発現などの関節炎病態をスコアリングするとともに、炎症部位の骨組織形態を精査し、さらに血清中の骨代謝マーカーを解析する。そして、この病態モデルにおけるTh17応答や、破骨細胞の機能に関わるシグナルと、上述した解析で明らかにしたsPLA2-XIIAの代謝産物との関連を調べることにより、sPLA2-XIIAの関節炎や関節炎炎症部位における破骨細胞の機能に対する役割を解明する。 次に、ABCB4に関する解析としては、ABCB4欠損マウスの骨髄細胞をX線照射マウスに移植し、得られた骨髄キメラマウスを実験に用いる。また、カテプシンKプロモーターを用いて破骨細胞特異的にABCB4を欠損したコンディショナルノックアウトマウスの作製も併せて進める。これらABCB4欠損キメラマウスやABCB4コンディショナルノックアウトマウスについて、マイクロCT解析や骨組織解析などのin vivo解析を行う。さらに解析の進捗状況に応じて、骨粗鬆症モデルや関節炎モデルを実施し、病態時の破骨細胞機能への影響を解析する。生理的条件下におけるABCB4の破骨細胞形成における役割を明らかにする。 以上のような方策で、脂質関連分子の破骨細胞や骨疾患における役割を明らかにしていく。
|
Causes of Carryover |
当初26年度に予定していたsPLA2-XIIAの標的リン脂質とその代謝産物の同定のために、脂質分析用の脂質標品や脂質抽出のための生化学的実験用試薬の購入を予定していたが、この解析を来年度以降に行うこととなったために、この解析に関連した消耗品の支出がなかった。その代わりに本年度前倒しで施行したPEの動態に関わる分子の探索実験は、消耗品の購入額が少なく、さらに、sPLA2-XIIA欠損マウスを用いた関節炎モデル実験についても、消耗品の購入額が少なく、結果として本年度計上していた消耗品購入額が計上額を下回った。 さらに学会発表開催地が近接地だったために、当初予定していた国内旅費の支出が殆どなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は、上述の脂質分析用試薬の購入を予定している。また、病態モデルマウスの解析に、リアルタイムPCRといった分子生物学的な試薬、また組織染色や細胞免疫染色用に抗体の購入予定である。また、遺伝子改変マウス作製のための分子生物学的試薬の購入を見込んでいる。さらに、病態モデルマウスや遺伝子改変マウスから初代培養細胞を単離し、培養するための培養関連試薬、培養細胞を用いた細胞生物学的な解析のための試薬を購入する。以上の消耗品試薬類は比較的高額なものが多いために、本年度繰り越しとなった金額と来年度計上額との合計金額分の消耗品試薬類の支出が見込まれる。 また、遠隔地での学会参加が予定されており、計上額の支出が見込まれる。
|