2014 Fiscal Year Research-status Report
生体適合性を有する3次元ナノ・マイクロパターン化足場材料による歯周組織再生
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26670892
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 賢 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (00322850)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 歯根膜細胞 / 生体適合性 / 水和構造 / 中間水 / 細胞接着 |
Outline of Annual Research Achievements |
超高齢社会が進行している我が国にとって、歯周組織再生は重要な課題である。歯周病治療にはヒト歯根膜細胞(PDL)の接着、増殖、分化、機能を制御できる新規バイオマテリアルの開発が極めて重要である。現在、歯周病治療に適した生体適合性に優れた材料の開発が遅れている。本研究では、生体適合性材料の水和構造を制御した材料を作製し、PDLの機能発現を制御し、3次元的な歯周組織再生を実現することを目指す。初年度は、Poly(2-methoxyethyl acrylate) (PMEA)およびPMEA類似体を合成し、PDL細胞の接着、増殖し、細胞外マトリックス(ECM)産生の変化を観察した。高分子の表面物性を系統的に変化させるために、PMEAの側鎖構造に注目し、エチレングリコール鎖長やエステル-エーテル間の炭素数および側鎖末端基を変更したアクリレート、メタクリレート、またシクロオクテンにエチレングリコール側鎖や2つのメトキシ基を導入した高分子を合成した。次に、生体適合性の指標となる中間水量を調べた。中間水量とPDL細胞接着との関係を調べたところ、特定の中間水量を示す高分子表面上で、PDL細胞が良好に接着し増殖することを見出した。細胞の接着選択性のメカニズムを解明するために、各高分子の中間水量と各吸着タンパク質の細胞接着部位の露出量をプロットしたところ、フィブリノーゲンの細胞接着部位の露出量に関しては、少量の中間水量が存在することで、細胞接着部位の露出量は抑制された。一方、フィブロネクチンの細胞接着部位の露出量に関しては中間水量が増加するにつれて吸着したフィブロネクチンの細胞接着部位の露出量が減少することがわかった。吸着タンパク質と中間水量に関して、中間水量が増加するほど吸着タンパク質が抑制され、吸着したタンパク質の細胞接着部位の露出量が減少することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
幹細胞を含んでいるヒト歯根膜(PDL)細胞は、再生医療用の有用な細胞源として期待されている。血小板粘着が軽微で優れた生体適合性を示すPMEAおよびPMEA類似体により、PDL細胞は接着、増殖し、細胞外マトリックス(ECM)産生が制御できることを明らかにした。生体適合性高分子上における細胞の接着機構を解明することは、抗体フリーでヘテロな細胞集団から幹細胞や特定の細胞種のみを選択的に選別できる新規医療用材料の開発につながるものである。再生医療の分野では、牛血清のような動物由来成分は、狂牛病などに代表されるような未知のウイルスの問題がある。この問題を克服し、安全性を確保する目的で、患者由来の自己血清を使用する場合があるが、患者の年齢や健康状態により、十分な血清の量を確保できない可能性がある。細胞を用いた臨床応用の際には、無血清培地もしくは低血清培地環境下においても、細胞が接着し、安全に細胞培養ができるような足場材料の開発が求められている。無血清培地環境下で細胞が接着可能な足場材料は、臨床応用が可能な足場材料として期待できる。中間水を有するPMEA類似体は異物反応が軽微で、低毒性を示し、変異原性がない安全な高分子であるため、中心静脈カテーテルのコーティング材に使用されている。したがって、中間水を有する高分子は異物反応が軽微でかつ低毒性を示す材料である可能性が考えられ、中間水を有する高分子をコーティングした培養皿で培養された細胞は、市販の培養皿に比べ、炎症に関するサイトカインの分泌が少ないことが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞の接着選択性の発現機構について、高分子の表面物性および水和構造の観点から考察を進める。材質と表面形状を組み合わせて中間水量を制御した生体適合性材料を用いて、ヒト歯根膜細胞に含まれる幹細胞を分取し、未分化状態と多分化能を保持した幹細胞を効率よく増殖・分化できる条件の探索を行う。また、安全な再生医療用の足場材料としての有効性を確立する。中間水を有する合成高分子は異物反応が軽微でかつ低毒性を示す安全な材料なので、中間水を有する高分子をコーティングした培養皿や3次元的な足場材料上で培養された細胞に対する炎症に関するサイトカインの分泌や異物反応レベルを比較する。また、生体内に存在する細胞の状態を生体外で維持できる可能性についてもも検討する。また、PDL細胞がどのように生体適合性高分子を認識し、接着、増殖、およびECMを形成しているかは明らかになっていない。このPDL細胞-生体適合性高分子間相互作用を解明することができれば、高分子材料によるPDL細胞の接着・増殖・機能発現の制御や、より優れた生体適合性高分子材料および優れた医療製品の開発につながると期待できる。PDL細胞-生体適合性高分子間相互作用の理解を深めるためには、生きた細胞と材料間に形成される接着点の解析が必要である。とりわけ、分解能が高い顕微鏡を用いて、細胞と材料の接着部位の構造をナノメートルオーダーで3次元的にリアルタイム観察するシステムを構築する。
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Causes of Carryover |
山形大学から九州大学への異動のため、細胞培養設備の移動のため、長期培養を次年度の計画に変更した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新しい細胞培養設備のセットアップが完了したので、予定通り細胞培養実験を行う。
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Research Products
(7 results)