2014 Fiscal Year Annual Research Report
筋運動感覚が運動観察力を向上させるメカニズムおよび観察力を促進する観察方法の解明
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26702025
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Research Institution | National Institute of Fitness and Sports in Kanoya |
Principal Investigator |
中本 浩揮 鹿屋体育大学, スポーツ・人文応用社会科学系, 准教授 (10423732)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | スポーツ心理学 / 運動制御 / 運動学習 / 知覚・認知 / ミラーニューロン |
Outline of Annual Research Achievements |
我々が他者の運動を観察する場合,自分自身がその運動をあたかも行っているかのように脳の運動関連領域が活性される.このような脳のシステムはミラーニューロンシステムと呼ばれ,自己の脳内で他者の運動を鏡のようにシミュレーションすることで,体験的に他者の運動を理解する役割があると考えられている.ミラーニューロン研究から導かれた運動観察に関わる重要な知見は,知覚 (みる) と運動 (する) が脳内では一部共通した神経基盤を利用しているという点である.これに基づけば,他者の動きの正確な認識には,単純に観察経験 (みる経験) を積み重ねるだけでなく,自己の運動経験 (する経験) を積み重ねることが不可欠であるということになる.しかし,運動学習によって得られる「何が」運動観察力の向上に貢献しているかについては明らかにされていなかった. そこで本年度は,観察経験では得られず運動経験のみで得られる筋運動感覚に焦点をあて,ただ運動を観察するだけで,運動観察力の高い者はあたかも自分が行っているかのように筋運動感覚をも感じているのかについて検討した.方法として,運動観察力の高いバスケットボール経験者と運動観察力の低い未経験者にバスケットボールのフリースローを観察させ,観察中に感じている筋運動感覚の量を運動感覚錯覚という現象を利用して測定した.その結果,ただフリースローを観察するだけで,筋運動感覚の錯覚量が経験者のみで増大した.また,筋運動感覚に外乱を与えながら他者の動作を観察させると観察精度が低下した.よって,運動観察力の高い者は,他者の運動を観察するだけで,その運動を行った場合に生じる筋運動感覚を自己の身体で感じており,その情報が他者の動作の識別に利用されていることが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主要な目的は,運動の学習場面に重要となる運動観察力に焦点をあて,運動観察力の個人差に関わる中枢メカニズムと運動観察力の促進メカニズムを明らかにすることである.また,これに基づき,運動観察力を向上させる観察方法を明らかにし,効果的な運動指導・学習方法の解明に寄与することを目的としている.本年度は,運動観察力の良否に運動経験が重要であるという近年のトピックに対し,なぜ運動経験が重要かについて筋運動感覚の貢献について検証した結果,運動を「みる」という行為に,運動を「する」ことで得られる筋運動感覚が重要であることが明確に示された.この本年度の成果によって,次年度以降の中枢メカニズムの解明に着手できる.よって概ね順調と自己評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,他者行為の理解のコアシステムであるミラーニューロンを含めた中枢メカニズムの解明に着手する予定である.近年,運動観察中の脳活動を調査した研究では,運動観察力が高い者は,後部島皮質に特異的な活性があることが報告されている (Aberuら, 2012).後部島皮質は筋運動感覚の処理に関与する (Karnathら, 2010).よって,この部位が運動観察力の個人差に関わる中枢メカニズムと想定できる.しかし,高次運動野など筋運動感覚処理に関わるその他の脳領域 (Naitoら, 1999)でも運動観察力の個人差を示す特異的な活動が生じると予想される.そこで本年度は運動観察時の脳波を測定し,特定の脳波周波数帯域の同期・脱同期現象 (Pfurtscheller, 1999) から運動観察中の筋運動感覚処理に関わる脳部位を同定し,脳波コヒーレンスから脳部位間の機能的連関を明らかにする (Shaw, 1981). また,申請者の研究グループでは,観察中の運動と同じ運動を同時に行いながら運動を観察すると,ただ観察するよりも運動の弁別精度が高まることが明らかになった (畝中ら, 2014).この結果は,同時運動によって生成される遠心性コピーが運動観察力の促進に関与していることを示唆する.遠心性コピーは,運動の結果として生じる感覚の予期に関与するもので,運動遂行状況では,予期した感覚結果と実際の運動で生じた感覚結果とが比較照合され,両者にズレがある場合は運動の修正情報として利用される (Ikudomeら, 2013).よって,本年度は同時運動による遠心性コピーから生成された予期した筋運動感覚と観察による視覚情報からミラーニューロンシステムによって生成された実際の筋運動感覚との比較情報が運動の弁別に利用されていると仮説だて検証する.
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Research Products
(10 results)