2015 Fiscal Year Research-status Report
中世初期東インドにおける武力と武装集団:その性格と農村権力関係との関わり
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26704008
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古井 龍介 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (60511483)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 東洋史 / 南アジア / 中世初期 / 農村社会 / 武装集団 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまずパーラ朝の未校訂銅板文書2点および要再校訂銅板文書1点を校訂して2本の論文として公表しつつ、パーラ朝銅板文書およびサンスクリット文献に見られる軍勢および戦争の記述・描写の比較を進めた。その結果、政略書や関連文献に見られる軍の構成や運用の記述が前時代の政略書を引き継いだものであり、碑文史料からうかがわれる、水軍・象軍・騎兵・歩兵で構成され、従属支配者の軍事奉仕に基づくパーラ朝の軍勢と相異すること、それに対しハルシャチャリタに見られる、従属支配者層を伴い、象軍・騎兵・歩兵で構成され、多大な混乱を生じつつ行軍する軍勢の描写がより中世初期の実態に近いと考えられることを確認した。パーラ朝軍の実態の一端は、ラーマチャリタに描写されるカイヴァルタ反乱についての論文においても論じた。また、デリー大学元教授で現在南アジア碑文における社会・経済・行政用語辞典プロジェクトに従事しているK. M. シュリマリ教授を招へいして講演会を催し、碑文に現れる用語解釈の精緻化についての示唆を得た。 海外での調査としては、まずイギリスのロンドンおよびオックスフォード、ドイツのベルリン、インドのデリー、コルカタおよびグワハティの諸博物館所蔵像銘および碑文、諸図書館所蔵貝葉写本および資料を調査・撮影した。またグワハティでは周辺遺跡の調査も行った。 なお、前年度に最終版を提出した6世紀東インドに関わるヴァイニヤグプタの新発見銅板文書についての論文が王立アジア学会雑誌に電子版として公表され、次年度に正式な印刷版が出版される見込みであることを付記しておく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は3点のパーラ朝銅板文書の校訂を論文として公表するとともに、ヴァイニヤグプタの新発見銅板文書に関する論文も電子版として公表し、当該研究課題に関わる基本史料を内外の研究者コミュニティーに提供した。また、パーラ朝の武力が実際に行使されたカイヴァルタ反乱についての論考を公表することで、その在り方に一定の解答を得た。ヨーロッパ、インドにおける調査を予定通り行って資料収集に努めたことに加え、K. M. シュリマリ教授の招へいおよび講演会開催による同教授との議論を通して、碑文史料解釈、特に特定歴史用語の解釈に重要な指針を得た。以上から当研究はおおむね順調に進展していると結論付けられる。
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Strategy for Future Research Activity |
東インド中世初期史に関わる碑文史料の校訂とサンスクリット文献の読解を継続する一方で、騎馬遊牧民系統の武装勢力が定着して支配を確立した西インドの事例との比較を通して、東インドにおける武力と支配の関係についての考察を深める。その際、クシャン朝研究の権威であるベルリン自由大学名誉教授で現在ミュンヘン大学ガンダーラ写本研究プロジェクト共同代表のハリー・ファルク教授を招へいして講演会を催し、騎馬民族の定着と支配正当化の一形態として、クシャン朝の支配正当化の態様を議論する。それらによって得られた知見を踏まえて、東インドの従属支配者層の支配関係について論考をまとめる。その一方で、ベンガルの農村社会における権力関係についての論考を執筆し、単著としての出版を目指す。インドでの調査は継続して行うが、治安状況の改善に応じてバングラデシュにおいても碑文史料の調査・撮影および資料収集に当たるものとする。それらに加えてヨーロッパ諸機関での調査および研究発表にも努める。
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