2018 Fiscal Year Annual Research Report
A geographical study on the formation of ethnic spaces under the changing Australian Multiculturalism
Project/Area Number |
26704010
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
阿部 亮吾 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (10509144)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | オーストラリア / 多文化主義 / シドニー大都市圏 / メルボルン大都市圏 / 移民エスニック空間 / 移民・難民定住支援 / フィリピン系移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、極度に多文化化・多民族化が進む現代オーストラリア社会において、1990年代以降のオーストラリア型多文化主義の変容(後退)が、ローカルな地域社会における移民コミュニティの組織化や、移民エスニック空間の形成に及ぼす影響を明らかにすることである。具体的には、オーストラリアのなかでも「海外生まれ人口」(=移民第一世代)が集住するシドニーとメルボルン両大都市圏を事例として、オーストラリア型多文化主義の制度的実践の1つである①移民・難民定住支援組織(Migrangt Resource Centre:MRC)の果たす役割と、②フィリピン系移民エスニック空間形成との相互関係性を指標にしながら研究を行ってきた。 平成26~27年度には、シドニー大都市圏外部郊外を拠点に活動するフィリピン系移民団体を訪問するとともに、複数の移民・難民定住支援組織や行政職員から現場での取り組みについて聞き取り調査を行った。また、平成28~29年度にはメルボルン大都市圏においても同様の調査を実施した。 一連の調査の結果、「フィリピン生まれ人口」の比較的大規模な集住都市が存在するはずの両大都市圏においてさえ、その中心商業地や郊外住宅地のいずれもフィリピン系のエスニシティが都市景観のなかに顕在化せず、フィリピン系移民のエスニック空間は「不可視な」状態にあることが明らかになった。他方で、1990年代以降の予算削減で支援のターゲット集団を新規移民に絞らざるを得ないMRCにおいては、比較的英語の上手なフィリピン系移民はその支援対象になりえないことから、後退期にあるオーストラリア型多文化主義に対しては、フィリピン系移民は自助的で独自の、かつ社会空間的なエスニック空間を形成することで対抗言説を生産している姿が明瞭になった。 平成30年度には、これら調査結果の一部を学術論文として英語(刊行予定)と日本語で公表した。
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