2015 Fiscal Year Annual Research Report
室温大気下で動作する走査型ダイヤモンドナノ磁気顕微鏡の開発
Project/Area Number |
26706007
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
藤原 正澄 関西学院大学, 理工学部, 助教 (30540190)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 走査プローブ磁気顕微鏡 / 電子スピン / 量子制御 / 量子計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、微小領域における微弱磁気を室温・大気中でも高感度にイメージングする走査型磁気顕微鏡の開発を行う。本手法ではダイヤモンド窒素欠陥(NV)中心の蛍光強度が周辺の微弱磁場の影響で変化する事を利用する 。磁気計測感度はNV中心の蛍光検出効率に強く依存するため、高効率蛍光検出が可能なナノ光導波路先端にNV中心を結合した走査型プローブを開発し、磁気イメージングへの応用を行う。
2年目となる本年度は、(1)電子スピン位相緩和時間計測システムの構築を引き続き行う事と、(2)走査型プローブ顕微鏡の探針への応用に特化した「テーパファイバ結合ダイヤモンドプローブ」の更なる結合効率の増大を目指した。 その結果、項目(1)に関しては、ナノダイヤモンド中の単一NV中心の電子スピン計測・制御に成功し、スピン特性の重要パラメータである位相緩和時間、縦緩和時間の測定にも成功した。ナノダイヤモンド中のNV中心の位相緩和時間は平均して1マイクロ秒程度であるが、位相緩和時間が8マイクロ秒に達するNV中心も発見した。当初の計画で目安としていた10マイクロ秒に匹敵する位相緩和時間が得られたのは大きな進展である。このナノダイヤモンド試料は表面にグラファイト層が残っているため、今後、表面を洗浄し、酸素終端する事で、10マイクロ秒以上のナノ粒子を見つけられると考えられる。
項目(2)の探針への応用に特化したテーパファイバ結合ダイヤモンドプローブに関しては、テーパファイバに結合したダイヤモンドナノ粒子中の単一NV中心の電子スピン信号を、ファイバ経由で観測する事に成功した。さらに、NV中心のスピン励起状態を磁場によってゼーマンシフトさせる事にも成功した。これは走査型ダイヤモンドプローブに向けての大きな前進である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標であった、NV中心の電子スピン位相緩和時間測定などのスピン計測・制御を実現し、電子スピン位相緩和時間が最大で8マイクロ秒のナノ粒子も発見することができた。また、テーパファイバ導波路結合ナノダイヤモンドにおいて電子スピン共鳴信号をファイバ検出で実現する事にも成功した。これらの事から、当初の予定通り進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である次年度は、①テーパファイバ結合ナノダイヤモンドを用いて走査プローブ顕微鏡としての応用を達成する事を目標とする。また、高性能化の観点から、②NV中心の位相緩和時間の長時間化に取り組む。 走査プローブ顕微鏡としての応用には、両端型よりも片端テーパファイバの方が適している。片端化のためにはテーパファイバ作製装置の改造が必要である。酸水素バーナーによるファイバ延伸や延伸速度の調整が可能なように装置を改造する。また交流磁場も検出できるようにスピン計測手法を若干修正する。もう一つの点として、走査プローブのスキャニングシステムを構築する。ただ、本研究では、磁場走査プローブ顕微鏡としてのポテンシャルを示す事を目的とするため、イメージングの品質にはこだわらない。そのため、既存のピエゾステージシステムを用いた簡易走査プローブで対応可能と考えている。 NV中心の位相緩和時間の長時間化のために、現在使用しているナノダイヤモンドの表面を混合強酸で洗浄し酸素終端する。また、より抜本的な対策としてバルクダイヤモンドからのナノ粒子作製に挑戦する。化学気相成長により作製した高純度ダイヤモンドを破砕してナノ粒子化する事で、長い位相緩和時間を有するNV中心を利用してセンシング性能の高感度化を行う。
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Causes of Carryover |
繰り越しが生じた理由として、旅費および「その他」経費の使用額が想定より少なかったためである。旅費に関しては当初、1回の国際学会出張と共同研究実験に関する費用として約80万円を見積もっていた。しかしながら、国際学会出張に関しては出張費用の大部分を所属機関から支弁して頂く事になった。共同研究実験に関しては予備データの取得を優先するために見合わせた。 「その他」経費に関しては2回分の論文出版料40万円、英文校正費用10万円を見積もっていた。しかしながら、1つの論文に関しては出版料が必要ない雑誌への掲載が決定した。また、もう一つの論文に関しては議論に時間がかかったため、年度中の出版ができなかった。この論文に関しては次年度には投稿予定である。また、英文校正費に関しては最終的に共同研究者に負担して頂く事になった。これらの理由により残額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度、助成金の使途に関しては、物品費・旅費・その他(論文出版料・英文校正費)を予定している。物品費は光学素子などの購入に充てる(40万円)。旅費は国内学会への出張費や共同研究議論のための調査費を含む(20万円)。その他の、論文出版料はオープンアクセスジャーナルを想定するため英文校正費含めて2件で40万円を計上する。
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Research Products
(12 results)