2014 Fiscal Year Annual Research Report
スピン波励起を用いたエレクトロマグノンの巨大電気磁気光学応答
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26706011
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 陽太郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30631676)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 光物性 / マルチフェロイック / 磁性体 |
Outline of Annual Research Achievements |
エレクトロマグノンが誘起する電気磁気光学効果の基礎学理を構築するため、スピン秩序とそれに付随するマグノン、更にはその電気磁気光学効果を、磁場・電場下でのテラヘルツ分光により研究した。特にマルチフェロイックで盛んに研究されているらせん磁性体が示す電気磁気結合効果を対象とした。最も基本的な場合として、サイクロイド型の磁気構造がエレクトロマグノンにおいて巨大な方向2色性を示すことを過去の研究において明らかにしている。本研究ではそれに加え、スクリュー型と呼ばれる、必ずしも強誘電分極を示さないらせん型磁気構造においてエレクトロマグノンが巨大な方向2色性を示すことを明らかにした。CuFeO2は代表的なスクリュー型らせん磁性体であり、スピン構造のもつキラリティを電場印加により制御することが可能である。単一のキラリティを持つスクリュー型磁気構造において、磁気共鳴を電場応答を示すエレクトロマグノンとしてテラヘルツ帯で観測し、その共鳴において方向2色性を実現した。ここで、光の方向の入れ替えによる吸収係数の変化は最大100%と非常に巨大な値をである。 一方、エレクトロマグノンによる新たな電気磁気光学効果の原理として、強誘電分極の伸縮による方向2色性を代表的なマルチフェロイックのモデル物質であるMnWO4において実現した。物質の分極と光の電場成分が平行なとき、らせん型磁気構造をとっているスピンが分極の大きさを変えるように振動することで電気磁気共鳴を誘起し、磁気カイラル効果に分類される電気磁気光学効果が実現していることを明らかにした。また、この新しい機構を含む3種類の電気磁気光学効果が、一つの物質中で実現していることを電場・磁場・スピン構造から構成される配置と微視的なモデルとの対応関係を考察することで明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
マルチフェロイックと呼ばれる誘電性と磁性が強い相関を持つ物質系では、動的な応答としてエレクトロマグノンと呼ばれる電場に応答するスピン波が特徴的な励起として現れる。エレクトロマグノンの大きな特徴は、光の電場・磁場成分の両者に対して応答することで電気磁気光学効果を誘起するという点である。この結果、非相反方向2色性と呼ばれる現象がエレクトロマグノンの共鳴において観測される。本研究では、スピンの秩序とそれが誘起する電気磁気結合効果を微視的なモデルと実験を対応させることで、新しい原理に基づく電気磁気光学効果の開拓、応答の巨大化、広い物質群への展開を目指した研究を行っている。 これまでエレクトロマグノンに関する研究は、マルチフェロイックの最も基本的なモデル物質であるマンガン酸化物を中心に進められてきた。前年度の研究では、より多彩なスピン構造を持つ物質へと展開することで、エレクトロマグノンに関する研究の展開を行った。CuFeO2やMnWO4などらせん型スピン構造に由来したマルチフェロイック物質がその基本的な励起としてエレクトロマグノンを示すことを明らかにした。更に、それぞれの固有の磁気構造の性質を利用して、新しい原理に基づく電気磁気光学効果を実現した。ひとつはスクリュー型のスピン構造が示す磁気カイラル効果であり、もうひとつは傾いたらせん型スピン構造が示す分極の伸縮モードに由来した磁気カイラル効果である。また、CuFeO2では、エレクトロマグノンの共鳴において100%を超える巨大な方向2色性を実現した。この結果は、基底状態における電気分極の大きさにかかわらず巨大な方向2色性が起こりうることを示した点で重要である。 このように当初の目的である「新しい原理に基づく電気磁気光学効果の開拓、応答の巨大化、広い物質群への展開」の3つの項目すべてにおいて当初の予想を超える成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究では、エレクトロマグノンの誘起する電気磁気光学効果の基礎学理を構築することを目的に、モデル物質として最適なシンプルな磁気構造を有するらせん磁性体に焦点を当てた研究を行った。この結果はより複雑な構造を有する磁性体や、応用に適したキュリー温度の高い物質に適用することができる。 まず、磁気単位胞内に複数のらせん面を持つ磁性体におけるエレクトロマグノンの電気磁気光学効果の研究を行う。らせん面の数に応じて音響モード的なエレクトロマグノンと光学モード的なエレクトロマグノンが出現することが予想され、それらがどのような方向2色性を示すかを明らかにする。光学モード的なエレクトロマグノンでは大きなエネルギーギャップを持つ共鳴が期待でき、より広いエネルギー領域で方向2色性を実現できる可能性がある。また共鳴エネルギーの制御は、モード間カップリングによる方向2色性の巨大化にも有用であると考えている。マルチフェロイックとして基礎物性が明らかになっているRMn2O5(R:希土類原子)を対象とする予定である。 エレクトロマグノンの電気磁気光学効果では、スピン構造の持つキラリティが重要な役割を果たす。一方、結晶構造がキラルである場合、結晶とスピン構造のキラリティが一対一で対応する場合がある。このような物質を用いると自然に単一ドメインのスピン構造が得られ、ドメイン整列過程が不要でかつ巨大な方向2色性が観測される可能性がある。結晶とらせん型スピン構造の対応関係が明らかになっているランガサイトを対象とする。 応用をターゲットにしたマルチフェロイック物質の代表であるヘキサフェライトでは、室温を超える温度でらせん型スピン構造が実現している。これらの系では原理的にエレクトロマグノンの方向2色性が実現可能であることから、組成・測定条件を詳細に検討し、室温化を目指す。
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Causes of Carryover |
前年度立ち上げを行った装置の一部として、年度内に納品が難しい機器が複数生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
テラヘルツ分光光学系構築に必要な計測用電子機器を7月をめどに購入予定。
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