2014 Fiscal Year Annual Research Report
エアロゾルの大気中環境動態を解明するためのイオンビーム顕微動態分析法の開発
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26706025
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
加田 渉 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (60589117)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | イオンビーム誘起発光 / エアロゾル / イオンマイクロビーム / スペクトロスコピー / イメージング / PIXE / IBIL / 環境動態解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
大気中の微小粒子状物質について、その環境動態解明につながる個別粒子表面の有機・無機化合物分布の可視化は極めて重要な課題である。本研究では、その解析に必要な化学組成分析・イメージング技術を、大気取出しイオンマイクロビームをプローブとした分析手法の開発により実現する。本年度は、計画通り主要な装置の開発までを達成することができた。特にイオン誘起発光(IBIL)顕微分光に必要な高分解能型検出器の設計及び開発が完了した。他方で、環境影響を有する有機物固着大気中微粒子(バイオエアロゾル)の指標となっているNADHやRiboflavin などの有機物標準試料を利用した分析応用を試行した。有機物標準試料の分析視野内の存在量を調整しながら、大気取出窓用薄膜材料上に微量に散布することで分析試料を調整した。各標準試料から計測されたIBILスペクトル中には、有機物種ごとに特徴的な形状のピークが観察された。また、イオンビーム照射環境下での連続的なIBIL計測では、スペクトル構造が徐々に変化する様子が観察された。IBILスペクトルの構造に現れる差異は、照射により与えられるエネルギーから各有機物の化学構造変化が生じていると考えられる。微粒子に固着する有機物は種類ごとに異なる化学的性質を有しているため、IBILスペクトル中のピーク強度の変化量やスペクトル構造そのものの変化が生じていると考えられる。イオンビームによる有機物分析は前例が少なく、困難さが残るものの、本分析体系で同時分析が可能であるIBIL/PIXE分析法を複合的に利用することにより、個別粒子レベルでの粒子の詳細解析の可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、主要な分析装置について設計及び開発までを達成することができた。他方で、イオン誘起発光(IBIL)用の顕微分光装置では、装置を利用してIBILの連続的な分析を試行することができた。連続的な照射ではスペクトル形状の変化が観察され、イオン照射の影響と思しき構造的変化までを連続的に観察可能であった。本内容については、2014年秋季に国内で開催されたPIXEシンポジウムにおいて発表し、大気中微粒子を専門とする研究者から、好意的なコメントを受けた。しかしながら現状では本研究課題は十分な成果報告ができているとは言えない。次年度以降にデータ解析や分析手法についての外部発表をより積極的に行いたい。現在、国内の研究機関に所属する連携研究者から実施の大気中微粒子試料について供給を受けており、これまでの測定結果とは異なるIBILスペクトルのピーク、構造を観察している。これらの内容については、連携研究者を交えながら十分に実験結果を精査し、慎重に議論を重ねながら成果報告につなげたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に得られた分析結果の解釈については、連携研究者である環境科学分野の研究者と議論を継続している段階である。次年度は主に分析チェンバの改良を行い、通常の大気環境を試料周辺に模擬できるマイクロチャンバから成る実験体系を整備する。模擬大気環境下に置かれた微粒子から、イオンビーム誘起発光を任意雰囲気下で連続的に分析可能とする予定である。実験装置ハードウェアの改造と同時に必要な信号処理体系やソフトウェアについても連続的な測定に対応するよう改良する。標準試料や微粒子試料への分析応用を繰り返し試行することで、構築中の実験装置の性能を評価し、大気中微粒子解析への最適化を図る。また、初年度に得られたデータを中心に国際会議IBA2015において外部発表を行う予定であり、これ以外にも随時論文誌などで装置開発及び分析応用両方の成果について報告を行う予定である。
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