2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26707021
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
鈴木 はるか (丹治はるか) 電気通信大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (40638631)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 量子エレクトロニクス / 共振器量子電気力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度には、1)実験共振器の安定化機構の改良、2)実験共振器の組み立てと超高真空への導入、3)共振器中に原子を捕捉するためのトラップレーザーの安定化、4)共振器と原子の結合強度を可変にするための機構の開発を行った。 1)については参照共振器の改良および光源の狭窄化を行った。前年度に作製した参照共振器はフィネスが高すぎたため、実験共振器を安定化させる上で技術的な困難を生じた。そこで、敢えてフィネスを下げて線幅を広げるという改良を行った。作製した参照共振器のフィネスは18000程度であり、線幅は200 kHzであった。一方、実験共振器の安定化に用いる光源を狭窄化するために光ファイバーを用いた光フィードバックを行った。その結果、もともと5 MHz程度であった線幅を75±21 kHzまで狭窄化させることに成功した。以上により、単一光子スイッチの実現において中心的な役割を果たす実験共振器の安定化機構が大幅に改良され、今後円滑に安定化を行える見通しが立った。 2)については、大気中で実験共振器の光軸を合わせた後にフィネスを測定し58000±9000という値を得た。この共振器を超高真空中に導入して再びフィネスを評価したところ47000±6000であり、誤差の範囲内で大気中での測定結果と一致した。これらの値は当初想定していた80000には及ばないものの、単一光子スイッチ実現のために共振器と原子を強結合させるには十分大きな値が得られた。 3)についてはトラップレーザーを安定化させるための電子回路を作製し、試験共振器に対して安定化させることに成功した。これにより実験共振器中に原子を捕捉するための準備が整った。 4)に関しては、ホログラフィック原子トラップと3)で構築したトラップを組み合わせることで共振器と原子の結合強度を可変にする機構を開発した。これにより、単一光子スイッチの基盤となる真空場誘起透明化(VIT)の現象についてより詳細な解析が可能になると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験共振器の超高真空中への導入は計画通りに進み、真空中においても十分に大きなフィネスが得られた。これにより、単一光子スイッチの実現に向けて原子と共振器を強結合させられる見通しが立った。 実験共振器の超高真空中における安定化には至っていないが、安定化の鍵を握る要素技術について、これまでの方法が抱えていた問題点を明らかにし、大きく改良を加えることができた。これにより今後の実験をより円滑に進めることのできる環境が整備され、目標の達成に近づいたと考えている。また、実験共振器を安定化させていないため原子の観測と結合強度の評価は行わなかったが、その代わりに共振器モード中に確実に原子を捕捉するためのトラップレーザーの安定化を実現し、実験共振器が安定化され次第、容易に結合強度の評価を行うことのできる体勢を整えることができた。 一方、単一光子スイッチの実現に向けては、真空場誘起透明化において原子と共振器の間の結合強度が果たす役割をより詳細に解析することが重要であると考え、当初の予定にはなかった、結合強度を可変にする独自の機構の開発を進めた。この機構を用いれば、VITの現象についての理解が深まるとともに、より理想的な形での単一光子スイッチの実現が可能になると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度には、1)平成27年度に改良した機構を用いた実験共振器の安定化、2)共振器中の原子と光子の結合強度の評価、3)透過率や周波数シフトの結合強度依存性の観測、4)実験共振器マウントへのレンズの設置およびプローブ光の光軸合わせ、5)VITの観測に向けた原子集団の準備、の5項目の達成を目指す。 1)については、平成27年度に改良した参照共振器を原子の吸収線に対し、また非共鳴光を参照共振器に対しそれぞれ安定化させ、さらにこの非共鳴光に対して実験共振器を安定化させることにより、実験共振器を原子の吸収線に対して安定化させる。2)については、共振器の共鳴周波数のシフトや透過率の変化から共振器中の原子と光子の結合強度を評価する。この方法で求まる結合強度と、共振器のフィネスおよび幾何学的パラメータを用いた計算から求まる結合強度を比較し、一致しているかどうかを確認する。3)については、平成27年度に考案し開発を進めたホログラフィック原子トラップと共振器中の一次元光格子を用いる方法で実効的に結合強度を変化させ、それによる透過率や周波数シフトの変化を観測する。また、ここで観測された実効的結合強度の最大値が2)で観測された値よりも大きくなっているかどうかを調べる。4)については、共振器マウントにVITのプローブ光を集光するレンズを設置し、再び真空中に導入する。ベーキングの後、共振器中に原子を捕捉しレンズを通して入射した共鳴光を用いてプローブ光の光軸合わせを行う。5)については補正磁場を用いて適切な量子化軸を設定し、光ポンピングによってVITの観測に向けた原子集団の量子状態の初期化を行う。 平成29年度には、これまでに開発した共振器と原子との結合強度を変化させる機構を用いて、VITの透過率や群遅延の結合強度依存性を詳しく調べる予定である。また、平成28年度に準備する2サイトを用いて光スイッチや量子ゲートの実装を目指す。
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Causes of Carryover |
実験共振器の安定化の機構を見直した結果、当初の計画よりも安価な方法で実現できることが明らかになったため、高分解能周波数変調信号発生器の購入を中止した。また、同じく購入予定であったスペクトラム・アナライザについては、目的とする測定(低周波領域での雑音の測定)の方法を再検討した結果、既存のオシロスコープを用いて行うことができたため、購入を中止することとした。一方、実験に用いる光源の安定化のために精密にレーザー光の波長を測定することが必要になったため、上記により生じた助成金の一部を、レーザー波長計の購入経費に充てた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでは単体で試験運用をしていた共振器と原子との結合強度を可変にする機構を実際に実験系に組み込むにあたり、1064 nm帯の光学素子が新たに多数必要となるため、その購入経費に充てる予定である。また、実験共振器の安定化機構の見直しにより新たに必要となった機器の購入経費にも充てる予定である。
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[Presentation] 光子で光子を操る2015
Author(s)
丹治はるか
Organizer
第28回先端光量子科学アライアンスセミナー
Place of Presentation
電気通信大学(東京都調布市)
Year and Date
2015-11-18
Invited
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