2014 Fiscal Year Annual Research Report
ナトリウムポンプ型ロドプシンの輸送メカニズムの網羅的分光研究
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26708001
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
井上 圭一 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90467001)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ロドプシン / 分光法 / 海洋性細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は海洋性細菌・K. eikastusより発見したナトリウム(Na+)ポンプ型ロドプシン(KR2)について、東京大学・濡木研究室との共同研究を通じて得られた結晶構造をもとに、機能に重要と考えられるアミノ酸残基について変異体作製を行い、その機能測定と分光計測を実施した。その結果Na+ポンプ型ロドプシンで最も重要と考えられているNDQモチーフを形成しているN112、D116、Q123について、それらが直接的にNa+の輸送に関わることが明らかになった。すなわちまず光が照射されると発色団であるレチナールのシッフ塩基からD116へ水素イオン(H+)の移動が起こり、さらにH+化されたD116は側鎖の方向を変化させてN112およびS70と水素結合を形成することが明らかとなった。そしてその後MからO中間体に変化する過程において細胞質側からNa+がタンパク質内部に取り込まれるが、この時迅速なNa+の取り込みにQ123が重要であることが示された。このことからQ123はNa+の輸送経路の一部を形成していると考えられる。そしてO中間体においてNa+はレチナール結合サイトの近くに結合するが、N112を変異するとこの結合が阻害されることから、野生型においてはN112が結合サイトを形成することが明らかとなった。このようにNDQモチーフの3つの残基はNa+の輸送に異なる役割を持っていることが示された。 一方でKR2の結晶構造を見ると細胞外側にNa+の取り込み口と思われる空隙が存在することが明らかとなった。この部分に存在する残基に着目して、新たに変異体を作製したところ、N61およびG263の部位に側鎖のサイズの大きなアミノ酸を導入すると、Na+だけでなくK+も輸送されるようになることが分かった(Kato et. al., Nature (2015))。また一方でBCループ上にあるD102がNa+結合サイトを形成することを新たに明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は共同研究を通じ、我々が2013年に発見したKR2についてその結晶構造を明らかにすることができた。またそれによってレチナール周辺のN112やD116、Q123についてそれぞれがNa+輸送に関わる役割を明らかにすることができた。さらにBCループ上のD102のわずか一残基を変異させることでNa+結合能が完全に消失することも示され、構造をもとにしてKR2の機能メカニズムについて、非常に多くの側面を明らかにすることに成功した。これは正に本研究の主たる目的とするものであり、研究計画の初年度の段階において非常に大きな躍進を遂げることができたといえる。 また結晶構造からは細胞質側のヘリックスAおよびGとの境界面にNa+の取り込み口と思われる空隙が存在することが示され、実際にこの部分を構成する残基に変異を導入することで、野生型では困難であったK+の輸送が可能になることが示された。一般に細胞内のイオン濃度はNa+よりもK+の方が10倍以上高くなることが知られており、このことからこの変異体はわずかな光で、より効率的に細胞内の陽イオンをポンプすることができるより思想的なオプトジェネティクスツールとして期待される。このことはタンパク質の構造情報という基礎科学的な知見から応用の期待できる新規なツールを作製することに成功したことを意味している。 さらにこれまで不明な点が多かったNa+結合部位について、細胞外側のBCループ所に存在するD102をわずか一残基変異させるだけで、完全にNa+結合能が消失することも示された。意外なことにこの変異体の輸送活性は野生型のモノと全く同一であり、Na+の結合がKR2においてはイオンの輸送に本質的ではないという事実が明らかになった。 以上の事から今年度における研究の目的の達成度としては、初年度において全体のかなりの部分を達成したと言え、当初の計画以上に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降はさらなる変異体作製や分光測定により、より詳細なNa+ポンプ型ロドプシンによるイオン輸送メカニズムの解明を行っていく。特にNa+以外のH+やLi+についてもKR2は輸送を行うことが可能であるが、これらのイオンの輸送メカニズムがNa+と同じであるのか、もしくは異なるのか、それについて定量的な部分も含めて明らかにすることを目指す。特にH+については機能測定を行う際にNa+よりも非常に低濃度(100万分の1程度)しか含まれないにも関わらず、単位時間あたりに輸送される量はNa+の1/5程度に達することが分かっている。このことはKR2はNa+輸送型ロドプシンにも関わらず、H+の方が輸送効率が良いことを示唆しており、この点についても定量的な比較を行っていく。 一方でNa+結合がNa+の輸送そのものには重要でないことは今年度の研究により明らかにされたが、それ以外のNa+結合の生理的な役割について解明する事も試みる。そしてこれまでの分光測定は主にフラッシュフォトリシス測定や低温FTIR、全反射型(ATR-)FTIRが主な測定手法であったが、次年度以降については共鳴ラマン光学系を新たに構築し、主に発色団周辺の構造についてより詳細な構造情報の取得を試みる。 また今年度の研究によりKR2はマウスなどの神経細胞に導入すると、非常に大きな神経活動の抑制能を示し、新たなオプトジェネティクスツールとして大きな期待が持たれる。そこでより理想的なツールとして機能を向上させるため、アミノ酸変異を中心とした分子デザインを行っていく。すでに細胞質側への変異によってイオン選択性が変化し、神経細胞中に多量に含まれるK+の輸送が可能になることを明らかにしている。従って今後はこの変異体を新たに動物細胞に導入して、その性能を野生型のものと比較すると共に、それ以外の変異体についても機能向上の可能性を検討を行っていく。
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Causes of Carryover |
今年度については予定していた経費のうち、設備備品や旅費等については当初の計画通りに予算の使用が成された。一方で消耗品費については特にKR2の機能メカニズム解明の為に、より多くの変異タンパク質の作製が必要になることが予想されたが、それを大幅に下回る量で十分に論文化が可能な結果を得ることに成功した。従ってこれに充てる部分の予算に残額が生じたが、一方で次年度以降に行う予定である、KR2をもとにした新規オプトジェネティクスツール開発のための変異体作製に必要な消耗品が新たに必要となったことから、次年度分として繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由から繰り越し分については、主に新規変異体作製のための消耗品費として使用する。
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Research Products
(25 results)
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[Journal Article] 1.Structural Basis for Na+ Transport Mechanism by a Light-Driven Na+ Pump2015
Author(s)
H. E. Kato, K. Inoue, R. Abe-Yoshizumi, Y. Kato, H. Ono, M. Konno, T. Ishizuka, M. R. Hoque, S. Hososhima, H. Kunitomo, J. Ito, S. Yoshizawa, K. Yamashita, M. Takemoto, T. Nishizawa, R. Taniguchi, K. Kogure, A. D. Maturana, Y. Iino, H. Yawo, R. Ishitani, H. Kandori, O. Nureki
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Journal Title
Nature
Volume: 印刷中
Pages: 印刷中
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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