2016 Fiscal Year Annual Research Report
構造設計が自在な有機分子還元剤による還元反応の革新と機能開拓
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26708012
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
劔 隼人 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60432514)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 還元反応 / 有機ケイ素化合物 / 低原子価錯体 / 表面有機金属化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機ケイ素化合物が金属塩を生じない有機分子還元剤として作用する知見をもとに,様々な低原子価金属錯体の合成反応に応用するとともに、低原子価金属錯体が触媒として用いられる種々の反応への展開を検討した。固体表面に担持した金属錯体の還元反応にも本手法を展開したところ、温和な条件で反応が進行し、固体表面上に配位不飽和な化学種を容易に形成可能であることを見出した。さらに、固体表面上の低原子価種がアルケンメタセシス反応の触媒として作用することを明らかにした。従来の還元剤は多くの場合、還元反応後に塩を与えるため、固体表面上の活性点を覆ってしまい、触媒を被毒することが知られている。したがって、金属塩を副生しない本還元手法が固体触媒の還元と活性化に対して非常に強力な手段となりうることが分かった。 さらに、本還元法によって生成する低原子価金属種を酸化還元活性な配位子によって捕捉した錯体が、ラジカル反応に対する効率的な触媒として作用することが分かった。すなわち、有機分子還元剤によって調整した低原子価ニオブ種に対して酸化還元活性な配位子を導入したところ、配位子に電子を蓄えた錯体が形成するとともに、外部基質に対しては配位子が柔軟に構造を変えることで速やかに電子を放出し、還元的な活性化による有機ラジカル形成が可能であることを見出した。実際に反応の詳細を各種速度論的実験により解析したところ、基質であるハロゲン化アルキルとの反応では配位子の構造変化とともに電子移動が進行したラジカル形成が進行する一方、もう一つの基質であるアルケンが金属中心に配位した場合、配位子の構造変化と配位子から金属への電子移動のみが進行したラジカル性錯体が得られることが分かった。配位子の構造変化と電子状態の関連性を触媒反応の電子移動段階に適用した例はなく、本知見により酸化還元活性な配位子による電子状態制御の新しい応用例を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
有機ケイ素化合物を還元剤として用いる研究は、これまでに均一系錯体を中心として進めてきた。一方、近年では新しい触媒の候補として金属酸化物担体上に金属錯体を担持する表面有機金属化学の手法を用いたシングルサイト性固体触媒に関する研究が国内外で活発に行われている。そこで、有機ケイ素化合物により還元が可能であることが分かっているタングステン錯体を金属酸化物担体上に導入した固体触媒を合成し、その還元反応を検討した。その結果、通常の固体触媒の活性化には400℃程度の加熱を要するところ、70℃という非常に温和な条件下で反応が進行することを見出した。これは、均一系錯体に適用可能な有機分子還元剤が固体表面の化学種に対しても適用可能であることを示した初めての成果であり、研究開始当初の想定を大きく超えるものである。また、還元剤由来の塩が副生しないことから固体表面上の活性点の被毒が抑えられるという画期的な知見であり、その結果、産業界でも多用される固体触媒の活性化に広く応用できる可能性を示すことから、さらなる展開が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
有機ケイ素還元剤の固体触媒への展開として、シリカ上に担持した金属化学種の還元反応について検討を進め、シングルサイト状態で固体表面上にタングステン錯体を導入したシリカと有機ケイ素化合物を混合することで温和な条件下で白色からタングステンの低原子価種に特有の濃紫色へと変化することが分かった。還元反応の前後でのタングステンの酸化数をEXAFSや酸化還元滴定等により確認したところ、主に2電子還元が進行し、シリカ表面上に4価のタングステン種が生成することを見出した。本知見は、様々な固体触媒に対して有機ケイ素還元剤を適用可能であることを示す研究成果である。そこで、さらに異なる金属錯体担持型固体触媒に対する還元反応について検討を進める予定である。 さらに、これまでは金属錯体の還元反応について検討を進めてきたが、本年度は有機分子に対する還元挙動についても着目する。すなわち、金属フリーの還元的分子変換の開発を進める。これまでの還元的分子変換は金属が還元剤として用いられることが多く、不均一系となり、さらには過剰還元が問題となってきた。そこで、有機分子還元剤を用いて当量制限や還元力の制御を行い、これらの諸問題の解決に取り組む。
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Causes of Carryover |
本年度は固体表面化学種の還元反応、ならびに、その表面化学種の同定に注力して研究を行ってきた。特に、特に表面化学種の同定については、比較的小スケールでサンプルを調整し、様々な測定を行うとともに、その解析にも多くの時間を費やしたことから、有機合成用試薬の購入が相対的に少なくなり、翌年度へと繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H29年度はこれまでの研究における知見をもとに、還元剤分子のライブラリーを作成する。そのため、有機合成用試薬、ならびに、触媒となる遷移金属塩を購入するとともに、その反応性を明らかとするため重水素化溶媒を購入して核磁気共鳴装置を用いた反応解析を推進する計画である。
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