Outline of Annual Research Achievements |
化学反応のマクロな挙動は, 遷移状態理論により, 個々の化学反応の総和として説明される.分子の集団的挙動は, 反応速度理論であるRRKM理論から一次式に従うと予測されるが, 実際には, 衝突や活性化により一次式に従わないことが多い.1 今回我々は, 分子の運動を一次元に制限することで, その反応がRRKM理論の予想通りに一次式に従うことを実証した. また, 本手法により同時に複数種類の反応を観察し,各反応の活性化エネルギーから反応機構を推定した. 本研究では, 高温処理を施したカーボンナノチューブにフラーレンC60を真空下で詰め, 原子分解能電子顕微鏡を用いて, C60分子が[2+2]環化反応(Step 1)を経て融合する(Step 2)様子を103 K-643 Kで観察した.2 さらに[2+2]環化反応のイベント数を数え, 反応確率(P)を求め,1-Pを対数変換して速度定数を導出し, 初速度が一次式に従うことを確認した. 543 K以上では速度定数が493 Kよりも小さくなったことから, 高温での逆反応の優位性が示された. また, 203 K以下では速度定数が443Kと同程度であり, アレニウスプロットから求めた, 393 K以上(Step 1H)と203 K以下(Step 1L)の活性化エネルギーは, それぞれ33.5 ± 6.8 kJ/mol, 1.9 ± 0.7 kJ/molになった. これらの結果から, Step 1Hの活性化エネルギーは, フラーレンC60の光照射反応とほとんど変わらないため,3,4 電子線照射により励起されたフラーレンC60の反応であり, Step1Lは, 活性化エネルギーの値が低いことから, 反応性の高いラジカルの反応であると推定された.
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