2014 Fiscal Year Annual Research Report
微視的なフォノン輸送特性を利用したナノ構造の熱伝導制御
Project/Area Number |
26709009
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩見 淳一郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40451786)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 熱伝導 / フォノン輸送 / ナノ構造 / 界面 / マルチスケール |
Outline of Annual Research Achievements |
固体を媒体とした熱エネルギーの輸送、蓄熱、変換を行う上で重要な熱機能である固体材料の格子(フォノン)熱伝導の制御性を向上させるために、数値解析構造設計、材料合成、物性評価を三位一体としたフォノンエンジニアリングの実践を目指して研究を進めた。 【フォノンモードに依存した熱伝導評価】申請者らが開発した、第一原理から求めた単結晶の力定数をもとに、分子動力学、格子動力学、モンテカルロ計算を適材適所に用いて計算するマルチスケール手法を、フォノンの界面透過や合金などの極所内部構造(非均一結晶)の影響を取り扱えるように拡張した。さらに、実験においてフォノンモードに依存した熱伝導率の測定を実現した。フェムト秒パルスレーザーを用いて試料表面の温度をピコ秒の時間分解能で測定する時間領域サーモリフレクタンス(Time domain thermoreflectance, TDTR)法を発展させて、レーザー加熱・測温領域を数十nmのオーダーで変化させながら計測を行うことによって、熱伝導率のサイズ効果を誘起した。 【界面原子構造とフォノン輸送の相間にもとづいた熱伝導制御】界面の原子構造のフォノン輸送への影響を検証するために、2次元界面系を合成し、界面原子構造を変化させながらTDTR法によって界面熱コンダクタンスを評価した。シリコン基板とSOIを接合した後に,ウェットエッチングによってSOIのBOX層と基板をリフトオフしてシリコン薄膜のみを残すことよって、TDTR法を用いて焼結界面の熱コンダクタンスが計測できる試料作製することに成功した。焼結接合、常温接合、エピタキシャル膜などの様々な界面構造を計測し、断面TEMによって界面の原子構造やひずみ分布を詳細に同定することで、界面熱コンダクタンスとの相関を明らかにした。さらに、解析によって得られる物理モデルと合せることによって、界面熱コンダクタンスの制御がバルク材料全体に及ぼす影響を評価した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載したとおり、今年度は「フォノンモードに依存した熱伝導評価」と「界面原子構造とフォノン輸送の相間にもとづいた熱伝導制御」を計画していたが、「研究実績の概要」に記載したとおり、両方ともおおむね予定通り達成できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
【フォノンの波動性を利用したバンドエンジニアリング】フォノンの位相が保たれる範囲(コヒーレント長)内であれば、周期性を導入して結晶の単位胞を増大させることによって、フォノンバンド(分散関係)のギャップを開けたり分散を小さくしてフォノン波の伝播を制御することが可能となる。まずは、分子動力学法を用いてシリコン結晶材料のフォノンのコヒーレント長を同定する。次に、その知見にもとづいて適切な擬周期構造を設計し、実際に合成・評価することでバンドエンジニアリングの実践を試みる。解析によって周期性の乱れに対するロバストネスが明らかになれば、ナノ粒子の焼結体でも実現できる可能性がある。 【低次元効果を用いた熱伝導制御】低次元構造では熱流の空間的な抑制により熱伝導率が増大する(低次元効果)ことが分子鎖やナノチューブなどを対象に研究されて来たが、材料の取り扱いが困難であることより、明確な実証には至っていない。そこで、より操作性に優れ、次元性を変えられる数層グラフェンに着目する。時間領域サーモリフレクタンス法や3ω法と、異方性を考慮した熱伝導モデルを用いて、剥離法によって合成した数層グラフェンの熱伝導率の面積や層数への依存性を計測し、分子動力学法や格子動力学法を用いた解析と合せることにより、低次元効果を定量的に評価する。さらに、表面に金属を蒸着させるなどして周囲環境へのロバストネスも評価することによって、複合構造中での低次元効果の発現の可能性を明らかにする。 【フォノン輸送のモード依存性を考慮したナノ構造の組み合わせの最適化】以上の効果を組み合せて熱伝導の制御効果を増大させる。単に全てを足し合わせるのではなく、上述の研究で得られるそれぞれの効果のフォノンモードへの依存性を考慮して、効果的な組み合わせを実現する。これを通じて、シリコンや炭素結晶材料の熱伝導率を大幅な向上および低減させる材料を設計する。
|
Causes of Carryover |
平成27年度に実施予定である「フォノンの波動性を利用したバンドエンジニアリング」や「低次元効果を用いた熱伝導制御」に必要なフォノン輸送の計測は、当初、「時間領域サーモリフレクタンス法」用いてを行う予定であったが、計測精度および得られる情報量の観点から、周波数領域サーモリフレクタンス法と合わせて行う方が良いことがわかったため、当該装置の構築および実施に要する予算を平成27年度の使用額とした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
時間領域サーモリフレクタンス法を構築および実施するために必要な物品費や人件費に宛て、それと波数領域サーモリフレクタンス法を合わせて、熱伝導やフォノン輸送の異方性や相関長の測定を行う。
|