2015 Fiscal Year Annual Research Report
磁場応答性ナノ粒子の開発と「磁気温熱療法と薬剤治療の一体化」による治療効果増強
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26709050
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
林 幸壱朗 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 助教 (80580886)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ナノ医療 / ナノ粒子 / セラノスティクス / ハイパーサーミア / MRI / DDS |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、マグネタイトナノ粒子クラスター-抗がん剤含有ポリマー コア-シェルナノ粒子を用いて、MRI、磁気ハイパーサーミア、磁場応答性抗がん剤放出が可能か生体外実験で確かめることを計画していた。 上記コア-シェルナノ粒子は、クラスター化してないマグネタイトナノ粒子に比べて飽和磁化、残留磁化、保磁力が高いことが明らかになった。これは、マグネタイトナノ粒子の非常に密なクラスター化により磁気双極子相互作用が強まることが原因であることを裏付けるデータが得られた。また、上記クラスターと同等の粒径をもつマグネタイトナノ粒子と磁気特性を比較したところ、保磁力はクラスターと同等の粒径をもつマグネタイトナノ粒子の方が大きかったが、飽和磁化および残留磁化はコア-シェルナノ粒子の方が大きかった。 MRI造影剤としての有用性を評価するために、上記のコア-シェルナノ粒子と二種類の比較材料の緩和能を評価した。この結果、コア-シェルナノ粒子は他の二つの比較材料に比べT2緩和時間を短縮し、よりMRIコントラストを増強させた。磁気ハイパーサーミア用発熱体としての有用性を評価するために、コア-シェルナノ粒子と二種類の比較材料の発熱量を比較したところ、コア-シェルナノ粒子は他の二つの比較材料に比べ大きい発熱量を有していた。これらの結果は、マグネタイトナノ粒子のクラスター化は、毒性を強めずに緩和能および発熱量を向上させることを可能にする新たな手法であることを示している。コア-シェルナノ粒子に交流磁場を印加したところ、コア-シェルナノ粒子から抗がん剤が放出され、磁場除去後も持続的に抗がん剤を放出した。コア-シェルナノ粒子はがん細胞に選択的に結合することを確認した。 これらの結果は、コア-シェルナノ粒子が、MRI、磁気ハイパーサーミア、化学療法に応用できる可能性があることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度に計画していた内容(マグネタイトナノ粒子クラスター-抗がん剤含有ポリマー コア-シェルナノ粒子を用いて、MRI、磁気ハイパーサーミア、磁場応答性抗がん剤放出が可能か生体外実験で確かめること)を順調に遂行することができた。このコア-シェルナノ粒子は当初予想していた抗がん剤放出挙動よりも実用的な放出挙動を示すことが明らかになり、コア-シェルナノ粒子の単回投与で持続的な化学療法を実現する可能性が出てきた。 コア-シェルナノ粒子が、クラスターと同等の粒径を持つマグネタイトナノ粒子よりも高い緩和能および発熱能を有することが明らかになり、クラスター化という手法の有効性を明確に実証することができたことは特筆すべき成果であると言える。 コア-シェルナノ粒子は、ある種のがん細胞に対して特異的に結合することをin vitro実験で明らかにすることができた。様々な対照実験により、これはコア-シェルナノ粒子表面の葉酸とがん細胞表面の葉酸レセプターとの特異的な結合を介することにより達成されていることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度までは計画通り研究を遂行することができており、一部予測を上回る良好な結果が得られている。このため、平成28年度は当初の計画に基づき、担がんマウスを用いてコア-シェルナノ粒子のMRI造影剤、磁気ハイパーサーミア用発熱体、交流磁場応答性ドラッグデリバリー用担体としての応用可能性を評価する。 担がんマウスは葉酸レセプターが過剰発現したがん細胞を移植したマウスを用いる。肉眼では腫瘍の位置を確認することができないモデルを作製し、コア-シェルナノ粒子を用いることで、MRIにより腫瘍を可視化することができるか確かめる。また、組織解析からもコア-シェルナノ粒子の腫瘍集積を確認する。さらに、経時的なMRI撮影により、コア-シェルナノ粒子の体内動態を解明する。表面構造の違いが体内動態に与える影響も調査する。 MRIでコア-シェルナノ粒子が腫瘍に集積することを確認した後、マウスに交流磁場を印加し、腫瘍を加熱することができるか確かめる。比較として、非クラスター化マグネタイトナノ粒子を投与した後に交流磁場を印加した際の腫瘍の温度上昇を調べる。 コア-シェルナノ粒子を用いた磁気ハイパーサーミアと化学療法の併用療法のがん治療効果を、腫瘍体積、体重変化、生存率から評価する。比較として、無処置、抗がん剤投与のみ、コア-シェルナノ粒子投与のみ、抗がん剤非含有コア-シェルナノ粒子投与後に交流磁場を印加したマウス、非クラスター化マグネタイトナノ粒子を投与した後に交流磁場を印加した群を作製し、治療効果を評価する。 また、コア-シェルナノ粒子の毒性をin vitroおよびin vivo試験により評価する。In vivo毒性は組織解析および生化学検査により行う。
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Causes of Carryover |
当初計画していたよりも順調に研究が進み、消耗品の使用を抑えることができたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験動物や細胞培養用試薬および器具などの消耗品に使用する。また、論文発表のための英文校正や論文掲載費に使用する。
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