2016 Fiscal Year Annual Research Report
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26709060
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 広和 北海道大学, 触媒科学研究所, 助教 (30545968)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 触媒 / バイオマス / キチン / 含窒素化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
キチンは窒素を含むバイオマスの中で最も賦存量が大きく、効率的な化学変換が可能になればナイロンに代表される付加価値の高い含窒素化学品の原料になる。2015年度はキチンの単量体であるN-アセチルグルコサミンが水素化されたN-アセチルグルコサミニトールの合成を試み、収率は22%と低いものの、確かに当該物質が合成できることを示した。N-アセチルグルコサミニトールはポリアミドやポリエステルアミドに変換できる可能性があり、またモノエタノールアミンといった汎用化学品に変換できる有望な中間体である。そこで、2016年度はN-アセチルグルコサミニトールの高収率化を目指して検討を行った。 まず、キチンに各種酸を含浸担持し、遊星ボールミル処理を行うことにより、機械的加水分解を試みた。その結果、pKaが0よりも低い酸が好適であることを見出した。これは、グリコシド結合をプロトン化する必要があるためである。以上の検討により最適化した条件でキチンの機械的加水分解を行うことにより、N-アセチルグルコサミンとそのオリゴ糖合計の収率は84%に達した。 本試料を直接加水分解水素化に用いてもN-アセチルグルコサミニトールの収率は約25%で頭打ちとなった。これは、加水分解と水素化の好適条件が著しく異なるためであることが分かった。そこで、加水分解と水素化の過程を分けたワンポット二段階反応を行った。加水分解反応をpH 2、170℃で行うと、N-アセチルグルコサミンが通算収率61%で得られた。次に水素化反応を、炭酸水素ナトリウムで部分中和してpH 3、120℃で行うことにより、N-アセチルグルコサミニトールが通算収率52%で得られた。水素化反応の速度論的解析により、強酸性条件では酸と水素化触媒による副反応が進行し、中性~塩基性ではレトロアルドール反応が顕著となるため、弱酸性条件が適していることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キチンからN-アセチルグルコサミニトールを効率的に合成できれば、含窒素化合物の新規合成ルートとなることから、N-アセチルグルコサミニトールを高収率で合成すること、生成物・副生成物を同定すること、速度論により定量的な反応の解析を行うことを本年度の研究計画とした。概要で述べた通り、反応法の最適化により収率を22%から52%に高めることができた。また、生成物各種の同定をGC/MSとNMRを用いて行い、主要な生成物の構造を決定することができた。さらに、反応速度論を検討し、各反応パスの速度定数を決め、反応の支配因子を明らかにした。従って、研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究により、酸触媒と混合ミル処理したキチン試料を加水分解水素化することにより、2-アセトアミド-2-デオキシソルビトールを収率52%で合成することができた。また、反応条件を変化させると、窒素を含有した主生成物がN-アセチルモノエタノールアミンに変わることを見出したが収率はまだ低い。そこで、本年度はN-アセチルモノエタノールアミンの高収率化、ならびに得られたこれらの化合物の有用化学品への変換を検討する。 まずN-アセチルエタノールアミンの収率を高めるために、レトロアルドール反応を選択的に起こす触媒を検討する。具体的には、塩基触媒としてアルカリ金属とアルカリ土類の炭酸塩や水酸化物を添加する。また、希土類トリフラートやスズ塩などのルイス酸触媒を検討する。また、反応経路を明らかにし、より詳細なチューニングを行う。 次に、N-アセチルモノエタノールアミンの変換反応を行う。水酸基を選択的に酸化することにより、アミノ酸であるN-アセチルグリシンを合成する。アミノ基が保護されたアミノ酸誘導体として利用が期待できる。本反応を促進する触媒としては、担持貴金属触媒を使用する。 さらに2-アセトアミド-2-デオキシソルビトールの脱水反応を行い、2-アセトアミド-2-デオキシイソソルビドの合成を試みる。固体酸としてゼオライトを検討する。本生成物は剛直な構造を持ち、分子内に一つの水酸基と一つのアミノ基を持つため、高ガラス転移点のポリエステルアミドなどの付加価値の高いプラスチック原料になる可能性がある。
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Causes of Carryover |
効率的に研究が進んだため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
反応に用いる試薬の購入に使用する。
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Remarks |
触媒誌に掲載された論文は若手単著論文企画に応募したものであり、大学30歳以上の部の最優秀論文に選出された。
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