2015 Fiscal Year Annual Research Report
初期地球表層環境における化学的元素濃集プロセスの解明
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26709069
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大竹 翼 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80544105)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | バーバトン緑色片岩帯 / 初期地球 / 地球表層環境 / 縞状鉄鉱層 / クロムスピネル / 熱水実験 / 生命の進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,平成26年度に南アフリカバーバトン地域で採取した試料の化学組成および同位体組成分析を行った。その結果,異なる露頭に置いて砕屑物の起源が異なることや,化学堆積による鉄やクロムの濃集の程度が大きく異なっていることが明らかになった。またクロムのホスト鉱物であるクロム鉄鉱の酸素同位体組成は熱水環境で形成したことを示唆した。これらの結果は、当時の熱水活動の程度や堆積環境の変化が原因と考えられ,32億年前に酸化的な海洋は存在していたが、ごく浅海域に限られていたことを示唆する重要な結果である。この成果は地球惑星連合大会やGoldschmidt Conferenceで発表した。また,バーバトン地域内ですでにこのような局地性が現れたことから,世界の他の地域との比較よりもこの地域を更に精査する必要が生じ,27年度予定していた地質調査はオーストラリアから南アフリカに変更し,風化を受けていない地下の新鮮な試料を坑内堀りの鉱山から採取した。 また、平成26年度に作成した熱水フロースルー実験装置を用いて、鉄鉱物の変質実験を摂氏150度, 5 MPaの条件で行った。その結果、鉄水酸化物に溶存二価鉄を含む溶液を流すことで、磁鉄鉱が形成されることを確認し、これはバッチ式で行われた先行研究と整合的であった。さらに、溶存二価鉄とクロム酸溶液を混合して生成させた鉄(III)、クロム(III)水酸化物を初期反応物質として変質実験を行った結果,クロムスピネスの生成がXRDやSEM-EDSによって確認された。通常マグマからの晶出のような高音で起こると考えられているクロムスピネルの形成が,このような低温熱水環境で形成することを実験的に実証できたことは画期的な結果であり,この結果は平成28年度のGoldschmidt Conferenceで発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画を概ね達成することができた。野外調査地は変更となったが,バーバトン地域におけるクロム濃集の時空間分布を明らかにすることに成功し,さらに風化の影響を受けていない新鮮な岩石試料を採取することができた。昨年度採取した試料については、全溶解後の溶液試料をICP-MSで分析し,微量元素濃度を測定し,砕屑成分の起源を考察することができた。また,SIMSによるクロム鉄鉱の酸素同位体分析からその形成温度を推定することができた。 熱水実験については,鉄酸化物の変質実験結果が良好だったため,クロム水酸化物を含む実験について計画を前倒しして行うことができた。また,その結果,クロムを含むスピネルの形成を確認し,画期的な成果を得ることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に採取した新鮮な試料を用いて、鉄鉱物の種類とクロム濃集の程度の関係性を明らかにすると共に,当時の堆積環境の変遷や生物活動について明らかにしていく。そのために,これらの試料の微量濃度分析,有機物含有量および炭素安定同位体比を行う。熱水実験については,実験生成物のXRD分析の結果からクロムスピネルであることが明らかになったが,TEMなどを用いて鉱物学的な特徴を明らかにし,天然試料との詳細な比較を行う。また,より天然試料に近い組成や鉱物学的特徴を持つための実験条件を探索し,当時の熱水活動や海洋環境を推定する。
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Causes of Carryover |
熱水実験に用いる金属部品の消耗品が予想以上に長持ちしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度には耐用頻度を超えると考えられるので、交換部品を購入する。
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