2014 Fiscal Year Annual Research Report
大脳皮質視覚野における同一神経幹細胞由来機能相同性配列の発達の解析
Project/Area Number |
26710002
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大槻 元 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 研究員 (60723278)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | クローン細胞 / 遺伝子改変マウス / 大脳皮質 / 一次視覚野 / 生体下Ca2+イメージング / 3次元位置機能解析 / 機能発達 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、大脳一次視覚野において由来する幹細胞を同一にする神経細胞群で機能発達が起こる仕組みを解明する。その際、二光子顕微鏡による生体内でのCa2+神経活動記録と脳スライス標本下の神経細胞群からの多電極パッチクランプ記録により、幹細胞を同一にする神経細胞のシナプス伝達と可塑性誘導、およびそれに対する投射を調べ、機能構造の発達過程を明らかにする。本年度は、幼若期と成体での機能類似性がどのように変化するのかを明らかにすることができたが、特にその機能の数値解析に研究の重点を置いた。 研究計画に立案した仮説1)-仮説3)のうち、仮説1)『幼若期と成熟期のクローン細胞群で機能の類似性に違いがある。』について検討したことを述べる。 クローン細胞群の標識には遺伝子改変マウス(TFC.09 x Ai14 系統)を用い、幼若期と成体のクローン細胞群で方向または方位選択性の違いを二光子顕微鏡観察によって調べたところ、予想通り、幼若期から成熟期にかけて機能の類似性が下がることがわかった。予備的なデータでは、同一幹細胞由来のクローン細胞は、幼若期の方が成体に比べ、機能的な類似度が高い傾向が既に観察されていた(Ohtsuki et al., 2013 日本神経科学大会)が、今回、新たに3次元的位置解析を進めたところ、クローン細胞群のうちでも、幼若期に大脳皮質内で比較するクローン細胞の近傍に位置するクローン細胞の機能がよく似ていることが明らかになった。今後は、何故近傍に位置するクローン細胞同士の機能が特に幼若期において類似性が高く、成体では類似性が低いのかを、シナプス結合を調べることで明らかにしたい。また、クローン細胞集団は幼若期には水平方向に反応しやすく、発達が進むにつれて水平と垂直方向への反応性を獲得することも分かった。現在、ここまでの研究結果をまとめ、論文投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
二光子顕微鏡を使った生体下でのCa2+指示薬(OGB-1AM)によるCa2+イメージングを行い、幼若期のクローン細胞と成体のそれの視覚機能(方位選択性)を調べる実験に関しては、既に実験方法が確立しておりデータ取得に困難が生じるようなことはなかった。本研究では、一個体あたり5000個程度の神経細胞のCa2+活動データを300x300x700(μm)の領域で取得することができるが、すべての細胞機能を同定し、また、すべての細胞の大脳皮質内での3次元的位置を数値解析によって正確に求める点に、今回、腐心し時間を費やすこととなった。 しかしながら、十分な解析を繰り返し行い、限りなく正しい計算結果をもとに脳機能解析データを蓄積することは、昨今の神経科学の潮流であり、この過程自体は重要かつ必要であった。今後は、論文推敲を重ね、確実な知識の積み重ねとなるような業績に、是非とも仕上げたい。 また、私は平成27年4月より、九州大学大学院医学研究院から所属機関の異動を行い、京都大学白眉センター 特定准教授(大学院理学研究科所属)に就任した。その準備に際し、研究に費やされる時間が一時的に減少したことは否めない。当初の予定より、3か月から半年の遅延が生じたと考えている。今後は研究活動に一層精励し、現状に甘んじることなく、研究成果を創出することを継続していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の論文執筆に加えて、本研究計画で挙げた、仮説2)『幼若期と成熟期とで、大脳皮質内でのクローン細胞群への結合様式に違いがあり、発達にともなってシナプス結合が変化する。』、および、仮説3)『幼若期で、大脳皮質外からの外側膝状体側枝がクローン細胞群毎に特異的に投射する。』の検証を行う。 既述の通り、本年度から所属機関を異動したが、現在の所属機関である京都大学大学院理学研究科には、細胞レベルで神経活動を記録できる二光子顕微鏡のセットアップがない。前年度まで所属していた九州大学医学研究院で二光子顕微鏡を使用させていただく手立てもあるが、まずは二光子顕微鏡に頼らないでも進行させられる、仮説3)と仮説2)の一部の検討を行う。仮説3)では、幼若期に互いの近傍に位置するクローン細胞の視覚機能が似ているといった、これまでに明らかになった事実を踏まえて、幼若脳のクローン細胞とその近傍の細胞の結合を調べ、成体脳のそれと比較する。その際、大脳皮質切片標本からの多重同時パッチクランプを行うが、パッチクランプのセットアップは本年度前半には設立可能で、順次、電気生理実験に移りたい。可能であれば、クローン神経細胞の樹状突起からの電気記録も挑戦する。 二光子顕微鏡を用いた残りの実験は本研究遂行にとって重要な課題となるが、生体下観察用機器の設立は本科研費の使用目的には含まれないので、生体下観察は九州大学と共同研究を行うか、京都大学での既存の生体下観察機器を使用させていただくことを考えているが未定である。(両研究機関の研究室主催者(九州大学医学研究院 大木教授、京都大学理学研究科 平野教授)には事情説明のうえ、状況を把握して戴いている。)
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Causes of Carryover |
学術研究助成基金助成金が126,972円を次年度使用額に計上することとなったが、京都大学への異動準備に伴い、一時的に実験時間が減少しファラデーケージや潅流装置といった設備・消耗品等の購入を控えたためである。このこと自体は研究遂行上問題ないし、次年度必要な設備・消耗品の購入に必要な繰越金である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度予算として、当初より予定していた、ファラデーケージや潅流装置の購入予算に充てる。
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