2015 Fiscal Year Annual Research Report
小分子RNAに誘導されるエピゲノム変化の生化学的解析
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26710011
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山中 総一郎 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (80711845)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | クロマチン / トランスポゾン / CRISPR/Cas9 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は前年度に引き続き、特定ゲノム領域に存在するタンパク質やRNAを同定するための手法開発を主眼に置いて研究を進めた。前年度までにパイロット版の実験系を構築したため、結合タンパク質が既に知られているゲノム領域に対してゲノムIP法を適用した。インシュレーターは、例えばエンハンサーとプロモーターとの相互作用を阻害するなど、ゲノム上の隣接する二つの領域を隔絶する働きをもつことが知られたエレメントである。この領域にはCTCFなど複数のタンパク質が特異的に局在する。この領域でゲノムIP法を適用したところ、同定されたタンパク質にはクロマチン上に多く存在するものが含まれていた。また、既知のインシュレータータンパク質であるPARPやCP190なども同定された。これらの結果は、ゲノムIP法によって、プロテオーム的に純度の高いタンパク質群が濃縮されたことや、特定ゲノム領域に存在するタンパク質を同定することが可能であることを示唆している。上記のタンパク質群に加えて、Mediator複合体中の複数のタンパク質がインシュレーター領域でのゲノムIPで同定された。現在インシュレーター機能に対するMediator複合体の役割を検証中である。 トランスポゾン上に存在するタンパク質を同定することは本研究の主眼の一つである。世界で広く使用されているCas9はStreptococcus pyogensから単離されたもの(SpCas9)だが、このCas9はヘテロクロマチンに効率良くアクセスすることが出来なかった。そこで、Staphylococcus aureusから単離されたCas9(SaCas9)を用いてChIPを行ったところ、このCas9はSpCas9に比べヘテロクロマチン領域に効率良くアクセスすることができることがわかった。現在SaCas9を用いたゲノムIPをトランスポゾン領域で行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究実績の項目で述べたように、ヘテロクロマチン化されたトランスポゾン領域にSpCas9はうまくアクセスできないという問題が明らかになった。これは、ある特定のヘテロクロマチン領域のみで検証した結果ではなく、複数のヘテロクロマチンで共通して観察されたことであった。SpCas9は1368a.a.の非常に大きなタンパク質で、この巨大な構造のために、ヘテロクロマチンへアクセスしにくくなっているのではないかと考えた。SaCas9はSpCas9にくらべおよそ300a.a.短いタンパク質で、SpCas9に比べオフターゲット効果が少ないことが先行研究で示されている。そこで、この「小さな」Cas9タンパク質がヘテロクロマチン領域にいかに効率的にアクセスできるかを検証したところ、オープンなクロマチン領域へのアクセシビリティーと同程度の効率でヘテロクロマチン領域にアクセスできることが明らかになった。この発見は本研究課題を遂行する上で重要な知見であり、この点を克服できたことは大きいと考えている。 上記の点と並行してゲノムIP法の改良を続けてきた。この改良版のゲノムIP法を用いて細胞からCas9タンパク質を免疫沈降したところ、細胞質由来のタンパク質のコンタミネーションがかなり減少した。これに対して、クロマチンに結合しているような既知のタンパク質群の濃縮が見られた。このことから、ゲノムIP法によってプロテオーム的に純度の高いクロマチンを精製することに成功したと考えられる。 以上の2点の発見内容を鑑みて、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の研究実績で述べたように、ゲノムIP法の改良に関してはほぼ完了したと考える。前年度までにゲノムIP法をゲノム上に一箇所しかない配列に対して行っていたが、今年度はゲノム上のトランスポゾンから派生した以下の繰り返し配列に対して適用する。 ゲノムに占めるトランスポゾン配列の割合は種によって異なり、さらにトランスポゾン領域に占める各ファミリーの割合も種特異的である。例えば、哺乳類のゲノム中に非常に多く見られるLINEトランスポゾンは非LTR型のトランスポゾンである。それに対して、ハエのゲノムに最も多く存在するトランスポゾンはLTR型のトランスポゾンである。よって、哺乳類の培養細胞とハエの培養細胞を並行して用いてゲノムIPを行う。 哺乳類のゲノム中の最も顕著な繰り返し配列はセントロメア付近に存在するリピートである。さらにこの繰り返し配列の一部にはトランスポゾンから派生したタンパク質が結合するエレメント(B-box)が存在する。よって、B-box配列上でゲノムIP法を行うとともに、B-box配列を含まないセントロメアリピート配列に対してもこれを行う。この解析を通して、セントロメアのサブドメインごとのクロマチン構築因子を明らかにする。
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Causes of Carryover |
平成26年度から哺乳類の細胞を用いてゲノムIP法を行うことを計画していたが、ゲノムIP法自体の改良が予想していたよりも順調に進んだためそちらに多くのエフォートを割いた。以上の理由から、哺乳類の培養細胞を用いた実験に費やす研究費が余剰となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度においては、複数の哺乳類由来の細胞を用いてゲノムIP法を適用しようと計画している。前年度から繰り越した研究費はこの部分に使用する。
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Research Products
(5 results)