2015 Fiscal Year Annual Research Report
細胞ターンオーバーを介した組織の時間軸制御機構の解明
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26711013
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大澤 志津江 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (80515065)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 成長遅延 / 細胞競合 / Wingless |
Outline of Annual Research Achievements |
多細胞生物の発生過程では、個体の成長速度に合わせて組織成長が進行するが、個体と組織の成長速度が調和して進行する分子機構は不明である。申請者らはこれまでに、ショウジョウバエをモデル系として用い、「個体の成長速度が低下すると組織中の細胞集団が細胞ターンオーバー(細胞死と細胞増殖による細胞の入れ替え)を亢進して組織の成長速度を低下させ、個体の成長速度に調和させる」という、発生時間軸制御を介した新しい恒常性維持機構の存在を見いだした。また、この成長遅延により引き起こされる細胞ターンオーバーが、ショウジョウバエ翅成虫原基のpouch領域(将来、翅を形成する領域)に形成されるモルフォゲンWingless(Wg)(Wtホモログ分子)のシグナル活性の勾配に依存した「細胞競合」により引き起こされることを見いだした。そこで本年度は、Wg依存的な細胞競合のメカニズムを解析した。その結果、翅原基におけるEcdysone Receptor(EcR)の発現上昇ががん抑制経路Hippo経路の不活化を引き起こし、それによりWgの発現が上昇して通常よりもWgの濃度勾配が強くなることが明らかとなった。また興味深いことに、EcRの発現上昇がMinute変異体の成長遅延を引き起こすことも分かった。すなわち、この成長遅延が翅原基におけるWgの発現上昇と協調することで、Wg依存的な細胞競合がさかんに引き起こされると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、Wg依存的な細胞競合の分子メカニズムを同定することに成功した。近年、ショウジョウバエ遺伝的モザイク法により、遺伝的背景の異なる細胞を実験的に組織に誘導して細胞競合現象を引き起こすことで、その分子機構の解析が進められてきたが、正常な発生過程で引き起こされる細胞競合の意義やその分子機構についてはほとんど分かっていなかった。本研究は、「細胞競合が発生時間軸を制御する」という新たな生理機能の同定に迫るものであり、その分子機構の一端を明らかにすることができたという点において、新規性の高い成果であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
Minute変異体の翅原基における細胞競合を遺伝学的に抑制し、これにより引き起こされる翅の形態異常を、免疫組織化学およびライブイメージングにて詳細に解析する。得られた結果を統合することで、「細胞集団の振る舞いによる組織の時間軸制御」の理解を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は、Wg依存的な細胞競合の分子機構の解析を中心に行い、この時点で論文をまとめることを優先させた。次年度において、細胞競合の破綻により引き起こされる成虫翅の形態異常を、免疫組織化学およびライブイメージングにより重点的に解析するために、それらに要する経費を次年度に繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
免疫組織化学およびライブイメージングに必要なショウジョウバエ飼育用消耗品・炭酸ガス等の消耗品費として使用する。また、遺伝学的スクリーニングの実施・ショウジョウバエ飼育を補佐する技術補佐員を1名雇用する。
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Research Products
(4 results)