2015 Fiscal Year Annual Research Report
根の緑化応答から明らかにする葉緑体の発達メカニズムとその制御
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26711016
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 康一 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (40587945)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 植物生理学 / 分子生物学 / 葉緑体 / 光合成 / シロイヌナズナ |
Outline of Annual Research Achievements |
一般に植物の根は炭素源を葉で行われる光合成に依存している。そのため、根では葉緑体の発達は抑制され、通常ほとんど緑化しない。一方で、自然界では食害や生育環境の激変などにより光合成器官の喪失が常に起こり得るため、植物はソース器官喪失に応答し新たな光合成器官の構築を行う仕組みを持つ。本研究の目的は、葉緑体分化の制御機構と光合成活性化の仕組みを解き明かし、葉緑体の分化・発達制御モデルを分子レベルで構築することにある。 報告者の先行研究により、地上部を切除したシロイヌナズナの根の緑化には、タイプB ARRを介したサイトカイニンシグナルが必須であること、さらにその下流ではGLK, GNC, CGA1といった転写因子が働くことが明らかとなっていた。そこで、これらの転写因子が根における葉緑体分化制御にどのように関わるのかを調べた。その結果、GNCやCGA1を過剰発現した根では、クロロフィル蓄積量が大幅に増加するだけでなく、光合成電子伝達活性も上昇することが明らかとなった。さらに、GLK1とGNCやCGA1を同時に過剰発現すると、光合成活性を高く保ったまま根のクロロフィル量が顕著に増加することが分かった。GLK1は核にコードされた光合成関連遺伝子の転写を特異的に上昇させるのに対し、GNCやCGA1は葉緑体コードの遺伝子発現も非常に強く誘導したことから、これらの転写因子が関与するシグナル経路の違いが根の葉緑体機能の違いを生じさせていると考えられた。さらなる解析から、光シグナル下流で機能するHY5がGNCやCGA1による根の緑化に必須なことも明らかとなった。光シグナルの抑制因子であるCOP1の変異体では、根のクロロフィル蓄積量の増加と共に光合成活性の上昇が見られたことから、根の葉緑体の質的な制御に光シグナルが重要な役割を果たすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者はシロイヌナズナを材料に、地上部の切除による根の緑化誘導にはタイプB ARRを介したサイトカイニンシグナルが必須であること、その下流でCGA1やGNCといった転写因子が重要な役割を担うこと、光シグナルとのクロストークが関わっていることを明らかにした。本研究の一つの大きな課題である、葉緑体分化を制御するシグナル伝達系の一部を詳細に明らかに出来たことは大きく評価できる点である。また、光合成電子伝達解析から、地上部を切除した根では光合成電子伝達系の質的転換が起こること、その転換にサイトカインシグナルとその下流のGNC、CGA1が重要な役割を担うことを見出した。このことから、地上部を喪失した根では、より効率のよい光合成組織への転換がサイトカイニンシグナル系を介して起こっていると考えられる。GNCやCGA1の過剰発現により核コード遺伝子だけなく、葉緑体コード遺伝子の発現も大幅に上昇したことから、このような光合成関連遺伝子の全体的な発現上昇が光合成活性のバランスを保つことに重要だと考えられる。しかし、核の転写因子であるGNCやCGA1がどのように葉緑体コードの遺伝子発現を活性化するのか、その結果どのようなプロセスにより光合成の質的転換が引き起こされるのかについては、未解明のまま残された。また、光情報伝達の抑制因子であるCOP1が根の光合成の質に関わること、COP1により制御されるHY5がGNCやCGA1による根の緑化誘導に必須であることも明らかに出来たが、それらがどのように相互作用しているのかも解明には至っておらず、今後の課題である。葉緑体分化に関わる転写因子の発現誘導系の構築に取り組み、それらを導入した候補ラインも複数得られたことから、今後の研究の準備を整えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、根の葉緑体分化制御や光合成電子伝達系の質的制御にCOP1やHY5の光情報伝達系とGLK、GNCやCGA1といった葉緑体分化に関わる転写因子が関わることを示した。しかし、これらの因子がどのように相互作用し、どのようなプロセスを経て葉緑体機能を統合的に制御しているのかは明らかでないので、その解明に取り組む。 これまでの解析では、GLKやGNC、CGA1を恒常的に過剰発現する形質転換体を用いて解析を行ってきた。しかし、恒常的な過剰発現体では2次的、3次的な影響を見ている可能性があり、それらの転写因子の最初のターゲットはどのような因子で、それがどのように最終的に葉緑体の機能発現につながっていくのかは不明のままである。そこで、地上部の切除により遺伝子発現が顕著に増加するCGA1の役割を明らかにするため、エストラジオール依存的にCGA1の転写量を増加させるコンストラクトを作成し、シロイヌナズナに導入した。その結果、CGA1誘導系の候補ラインが複数得られたので、その誘導の程度や効率の評価を行ったのち、選抜ラインを用いて更なる解析を行っていく。具体的には、CGA1の誘導後の遺伝子発現プロファイルを網羅的遺伝子発現解析で経時的に調べ、CGA1誘導直後に発現が変化する因子や、それに遅れて変化する因子、それらと光合成関連遺伝子の発現変化の関連性などを解析する予定である。また、遺伝子発現変化とクロロフィル合成量や光合成活性、チラコイド膜形成の経時的な変化との関係も、光合成色素分析や顕微鏡解析、チラコイド膜脂質分析、クロロフィル蛍光イメージャーによる光合成解析を行うことで明らかにしていく。さらに、非光合成組織における葉緑体分化と植物の成長制御との関係を調べるため、シロイヌナズナだけでなく葉緑体分化制御に独自の特徴を持つような植物も対象に研究を広げていく予定である。
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Causes of Carryover |
根におけるクロロフィル蛍光を指標とした変異体や過剰発現体の大規模スクリーニングを行うにあたって、研究補佐員を雇い効率的に進める計画であったが、変異原処理したシロイヌナズナ変異体および過剰発現体ラインの生育が思わしくなかったこと、また適切な研究補佐員が見つからなかったことから、大規模スクリーニングを一時中断し、再度条件検討を行うこととなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
根などの非光合成器官における葉緑体分化制御が異常となった変異体、過剰発現体のスクリーニング条件の見直しを行うため、まずはスモールスケールによるスクリーニング条件の検討を行う。その過程で、リアルタイムPCR解析やタンパク質解析、光合成色素解析を行い、目的とした変異体候補が得られることを確認する。これらの実験を行うための試薬、酵素類、ディスポーザル器具類を購入する。さらに、光合成色素分析のためにHPLC用の蛍光ディテクターと分画カラムを購入し、変異体候補の評価を行う予定である。
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