2015 Fiscal Year Annual Research Report
植物生長制御に関わるアブシジン酸シグナル伝達の解明
Project/Area Number |
26711018
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
岡本 昌憲 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 助教 (50455333)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 植物ホルモン / ケミカルバイオロジー / アブシジン酸 / 受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
アブシジン酸(ABA)の生理作用は、様々な植物種間に多数存在するPYR/PYLと呼ばれる受容体を介して、時空間的に様々な下流因子を介して引き起こされる。ストレス応答に関わるABAシグナル伝達因子の多くが明らかにされたが、ABAがどのように植物の成長を制御しているか明らかになっていない。本研究では、特定のABA受容体だけに結合し、特異的な組織に作用する新奇バイオプローブを用いて、植物の生長制御に関わるABAシグナル伝達機構の解明を目的としている。 新奇ABAアゴニスト(115C07化合物)はこれまで報告されてきたABAアゴニストのピラバクチンやキナバクチンとは異なり、種子発芽阻害や植物におけるABA応答を引き起こさず、胚軸の成長阻害のみを引き起こす。115C07による胚軸成長阻害は、代表的ABA非感受性変異株abi1では引き起こされないことから、新奇ABAアゴニストは主要ABAシグナル経路に作用していると考えられる。当初、115C07は酵素活性によりABA受容体のPYL11とPYL12を標的とすると考えられた。一方で、同時並行に行ってきたABA受容体変異株を用いた解析から、115C07化合物は生体内でPYL8を標的としている事が判明した。115C07非感受性変異株群について、PYL8変異の有無を調べたところ、9つの変異株において、予想通りにPYL8遺伝子に変異を発見することができた。また、115C07非感受性変異株の幾つかに関しては、既存のABAシグナル因子のABI3, ABI4, ABI5遺伝子にも変異を持っている事が判明した。残りの13種類の変異株については、既存のABA関連原因遺伝子座に変異を持っていないことが明らかとなった。マッピングの結果、幾つかの変異株では、2つの変異株で染色体1番の上腕の3M付近にマーカーがマップされ、既存のABAシグナル因子はこの領域に存在しないことが明らかとなっており、現在、原因遺伝子の同定を行っている最中である。他の変異株についても、ラフマッピングを進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
115C07化合物の標的はPYL11とPYL12受容体であると予想されたが、実際は、PYL8受容体であることが遺伝学的な解析から判明した。当初の予想とは異なったものの、標的受容体を特定できたことに違いは無く、計画がおおむね成功していると考えられる。単量体型ABA受容体を選択的に活性化できるABAアゴニストは、これまで報告が無く、本研究の新奇性は保たれていると考えられる。また、115C07を改変させた化合物の開発も行っており、115C07よりも強力にPYL8受容体および他の単量体型受容体を活性化できる化合物に成功している。受容体変異株を用いた解析結果と一致して、これらの化合物の投与によってABA応答性遺伝子の発現を誘導することはできないが、植物の生長には影響を及ぼすことが判明している。 一方で、ABA受容体の二量体型で構成される二重変異株(pyr1pyl1)および三重変異株(pyr1pyl1pyl2)と単量体型で構成される6重変異株(pyl4pyl5pyl6pyl8pyl9pyl12)を作成した。予備的な結果から、二量体型で構成される変異株は植物サイズが野生株に近い形質である。単量体型多重変異株では植物サイズが若干小さい事が判明した。このことから、植物の生長には単量体型受容体が主に関わっている可能性が示唆された。単量体型受容体の下流因子がABAと植物の生長制御と関連性があると予想され、現在得ている変異株の原因遺伝子を特定することで、どのようにABAが植物の生長制御に関わるのか明らかにできると考えられる。 従って、現在まで得られている結果を総合的に考えると、おおむね研究計画が成功していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
115C07は暗所での胚軸生長を特異的に阻害する。胚軸伸長は環境シグナルに応答して、オーキシン、エチレン、ブラシノステトイド、ストリゴラクトンなどのホルモンを介して制御される。そこで、115C07によって制御されるシグナルがどのシグナル因子をターゲットにしているのかを、既存の変異株を用いて明らかにする。具体的には、光受容に関連変異株(hy1, hy2, hy5, phyb, cry)やホルモン関連の変異株(iaa18, ein2, ein3, max1, max2等)において、C115C07の暗所での胚軸成長応答を解析する。また、115C07変異株群の原因遺伝子を明らかにして、その原因遺伝子がどのように既存の因子と相互作用するのかを明らかにする。 一方で115C07の標的は、in vitroとin vivoで異なることから、115C07が代謝され、その代謝物がPYL8に対するアゴニストとして働いている可能性がある。そこで、生体内でs作用するアゴニストをHPLC-MS分析により同定を試みる。
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Causes of Carryover |
補助金に関しては計画通りに、全額使用したが、基金分の46万円に関しては、研究の進展状況に依存して必要となる機器の購入のために次年度へ持ち越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用であった基金分を有効に活用し本年度の研究費と合わせることで、化合物の代謝物同定のための遠心濃縮機の購入を予定している。
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