2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26711020
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
作野 剛士 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 准教授 (10504566)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 減数分裂 / 相同組換え / コヒーシン複合体 / 一方向性結合 / 還元分配 / CK1 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々ヒトをはじめ有性生殖を採用した多くの生物は、減数分裂過程を通じて精子や卵子といった配偶子に両親の染色体を正確に半分ずつ分配し、それらを受精により合わせることで遺伝情報を子供へと伝える。減数分裂過程では、両親由来の各染色体は”組換え”と呼ばれる反応を介して互いの情報を混ぜ合わせ遺伝的多様性を獲得すると同時に互いにペアを作ることで、たくさんある染色体の中で分配する組み合わせを間違えないようにする仕組みが用いられている。この過程に異変が生じると染色体の分配ミスが頻発してしまう結果、ヒトではダウン症や早期流産を引き起こすことが示唆されている。しかし、減数分裂期における組換え反応の開始機構や、その後の染色体分配制御の全体像は長い間不明のままである。 我々の以前の分裂酵母をモデルとした解析から、進化的に保存されたリン酸化酵素であるカゼインキナーゼ(CK1)が減数分裂期組換えに必要であることを見いだしていた。その後の解析から、染色体上に点在し染色体同士をつなぎ合わせる機能をもつコヒーシン複合体がCK1によってリン酸化されると、それを目印として減数分裂組換えの開始に必須な様々な因子群が染色体上へと連続的に集積する結果、組換え反応が開始されるという機構を明らかにした。また、減数分裂期ではいわゆるシナプトナマ複合体と呼ばれる染色体構造が形成されるが、それとは独立にコヒーシン複合体だけで減数分裂期に特有な染色体の軸構造を形成しうること、その構造が組換えとその後の染色体分配に必要であることを示唆する結果を見いだした。CK1やコヒーシン複合体はヒトにも相同な因子が存在することから、今回明らかになった知見はマウス生殖細胞を用いた解析へと発展させることで将来的にはヒトの不妊治療の進展に寄与することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
減数分裂期では、体細胞分裂期とは異なり相同染色体間で生じる組換え(キアズマ)とコヒーシン複合体による姉妹染色分体の接着を介して相同染色体ペアが物理的に結合する。さらに、体細胞分裂期で姉妹動原体は互いに離れて存在するが、減数第一分裂期ではコヒーシン複合体の機能により融合される。組換えと姉妹動原体の融合が協調的に機能する結果、減数第一分裂期では姉妹染色分体ではなく相同染色体が両極へと分配される還元分配が起きる。本研究ではこれら還元分配の制御を担う根幹的機構である”組換え”と”姉妹動原体の融合”の制御機構を明らかにすることを目指している。 これまでに、CK1が減数分裂期特異的なコヒーシンをリン酸化することで組換え開始に必要な染色体構造を作り出す機構を見いだし、その機構が進化的に保存されていることを示唆できた。また、減数分裂期特異的なコヒーシン複合体のみでも減数分裂期に特有で、かつ組換えを行うための土台として機能するような染色体軸構造が形成されることを見いだしたことは組換え開始反応を司る分子機構解明に迫るものであり、順調な研究の進展があったと言える。また、CK1によるリン酸化を介したAurora Bの機能制御に関する分子機構についても幾ばくかの進展が見られた。しかし、もう一つの大きな解析の柱である姉妹動原体の融合を促進する分子機構に関しては、予定と比して順調な進捗状況とは言いがたく、その状況を改善し研究を進展させていくことが今後の大きな課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
1)減数分裂期組換え反応の制御機構に関して。我々は分裂酵母のAurora B複合体が減数分裂期組換え反応にも機能を果たすことに加え、Aurora B複合体の構成因子であるPic1 (INCENP)、Bir1 (Survivin)、Nbl1 (Borealin)がCK1によってin vitroで強くリン酸化を受けることも見いだしている。その中でPic1のリン酸化はAurora B複合体の活性化に寄与し、Bir1のリン酸化はAurora B複合体の局在化に機能することを示唆する結果をえている。今後は特に細胞内でのCK1のリン酸化の意義についてより詳細な解析を行う予定である。 2)姉妹動原体の融合を促進する分子機構に関して。分裂酵母の減数第一分裂期におけるRec8コヒーシン複合体を介した姉妹動原体の融合には、Moa1によって動原体へとリクルートされたPlo1(Polo like kinaseのホモログ)のリン酸化活性が必須である。よって、Plo1によるリン酸化を受けることで、Rec8コヒーシン複合体が姉妹セントロメアDNA領域での接着を確立および維持できるといった機構の存在を想定し、これまでにコヒーシン複合体サブユニットやその制御因子の一部がPlo1によってリン酸化されることを見いだしている。今後はそれらリン酸化残基の変異体を用いることで細胞内におけるリン酸化の意義を明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
UVランプを用いた蛍光顕微鏡より、長寿命のLED形式の蛍光顕微鏡の使用頻度が高くなった結果、UVランプ交換にかかる費用が安くなったことに加え、プライマーや外注シークエンスの一サンプル当たりの単価が30%程度安くなったこと、さらにリン酸化部位同定の研究進捗が遅れていることから、購入予定であったリン酸化抗体が未発注であることなどが次年度使用額の生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度に購入予定であるが発注できていなかった5本程度のリン酸化抗体について、その後の研究が進捗していることから、順次購入できる予定であり、その合計予定価格は約70万円程度と見込んでいる。また、本年度請求額にはこの額を組み入れておらず他の物品費で使用する予定である。
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