2015 Fiscal Year Annual Research Report
非モデル動物を用いた海産無脊椎動物幼生の進化に関する比較発生学的研究
| Project/Area Number |
26711022
|
|---|
| Research Institution | University of Tsukuba |
|---|
Principal Investigator |
中野 裕昭 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (70586403)
|
|---|
| Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
| Keywords | 幼生 / 進化 / 発生 / 平板動物 / 珍渦虫 / 棘皮動物 / 扁形動物 / 後生動物 |
|---|
| Outline of Annual Research Achievements |
近年の研究技術の革新により、様々な動物の成体組織間の進化的関係性は続々と明らかになっている。しかし、海産無脊椎動物の幼生に関しては、その相同性や起源がほとんど解明されていない。新口動物のディプリュールラ型幼生と旧口動物のトロコフォア幼生が共通祖先由来の相同な発生段階なのか、収斂進化の結果なのか、諸説が入り乱れている。その要因の一つとして、発生学的データの不足が挙げられ、系統学的に重要な位置を占めながら発生の報告が非常に少ない種も未だに存在する。本研究では、応募者が世界初の発生観察を行ったウミユリと珍渦虫、及び平板動物と扁形動物に対し形態学的研究、時空間的遺伝子発現解析を行い、後生動物の幼生の進化や起源について新たな知見を得るのが目的である。
扁形動物に関しては、引き続き研究協力者から提供して頂いた発生ステージのトランスクリプトーム解析を行った。
棘皮動物門有柄ウミユリ類トリノアシに関しては、本年度も生殖時期である夏から秋に採集を行い、成体の入手に成功した。特に本年度は若い成体の採集に成功し、有柄ウミユリ類の成長に関して新たな知見が得られた。
珍渦虫に関しては、スウェーデンに赴き、多くの成体の採集に成功した。その採集個体の一部はゲノム解析、及びトランスクリプトーム解析に使用しており、これらの解析結果も出始めている。また、本年度も引き続き日本での珍渦虫の探索も行った。
平板動物に関しては、安定した実験室内飼育系統の維持のために、消化系の遺伝子の研究、及び摂食行動の観察も行った。この成果もあり、飼育系は以前よりも安定して個体数が維持できるようになった。また、日本国内複数箇所で採集を行い、各地に生息するハプロタイプを調べた。さらに、下田における平板動物の推定される繁殖時期に関して、再現性が確認された。
|
| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
扁形動物に関しては、トランスクリプトームの解析が進んでおり、予備的な結果も出始めている。また、所属機関である筑波大学下田臨海実験センターにおいて研究協力者が実験室内での継代飼育に成功していることから各発生ステージの入手も可能である。
平板動物に関しては、繁殖時期の再現性が確認された。新たな卵と胚の獲得にも成功し、個体発生過程の形態学的観察が進んでいる。また、有性生殖の効率的な観察の為の下田以外での平板動物の採取、及びハプロタイプの決定も進んでいる。さらに、消化系の遺伝子の研究、及び摂食行動の観察を行った。この成果もあり、飼育系は以前よりも安定して個体数が維持できるようになったことから、今後遺伝子発現解析等の実験の際には安定して個体数の獲得が可能である。
棘皮動物門有柄ウミユリ類トリノアシに関しては、本年度も生殖時期である夏から秋に採集を行い、成体の入手に成功したものの、受精卵の大量取得はできなかった。しかし、本年度は若い成体の採集に成功し、有柄ウミユリ類の成長に関して新たな知見が得られた。過去に作製した固定胚の観察も進んでいる。また、今後も充分な幼生の個体数の入手が困難であった場合に備え、ゲノムやトランスクリプトーム解析からトリノアシの発生の進化を研究することを検討している。
珍渦虫はスウェーデンに赴き、多くの成体の採集に成功した。その採集個体の一部はゲノム解析、及びトランスクリプトーム解析に使用しており、これらの解析結果も出始めている。しかし、幼生の大量入手には至っていない。
以上まとめると、多くの遺伝子の発現解析に必要な各発生ステージの大量固定は行えていない種が多いものの、過去に作成した固定胚の観察、及びトランスクリプトーム解析等を行うことで，全体としてはおおむね順調に目的に向かって進展していると考える。
|
| Strategy for Future Research Activity |
本研究では、今後もトリノアシ、珍渦虫、平板動物、扁形動物の各動物種において、成体の飼育、生殖過程の観察、発生過程における各発生段階の観察及び固定胚の作製を行う。得られた固定胚に関しては、光学顕微鏡による外部構造の観察、切片などによる内部構造の観察、電子顕微鏡による微細構造の観察を行う予定である。また、遺伝子のクローニング、ゲノム解析、トランスクリプトーム解析等も、それぞれの種の研究の進展に合わせて適宜行う。
珍渦虫はスウェーデンでのみ定期的な採集が可能だが、厳しい寒波の際には繁殖時期の成体の採集が不可能になってしまう。これを避けるため、スウェーデン以外に生息する珍渦虫の探索が重要である。2016年2月にはアメリカ西海岸の太平洋から珍渦虫が報告された。この新しく報告された珍渦虫は主に水深1,500m以深の海底から採取され、定期的な採集は困難であるが、太平洋にも珍渦虫が生息することが判明したため、これまで以上に日本での珍渦虫探索に力を入れたい。
今後の平板動物の遺伝子発現解析に関して、天候に左右されずに個体の入手を可能にするため、及び安定した結果を得るため、実験室内飼育系統の維持は重要である。2015年度に消化系の研究、及び摂食行動の観察も行った結果、これまで以上に安定した飼育系を維持できるようになったため、今後も消化、摂食の実験を継続する。
また、平板動物は分裂や出芽による無性生殖も頻繁に行うため、下田で採取した個体同士が遺伝的に同一なクローンで、有性生殖を起こさない可能性もある。さらに、平板動物は今でも一門一種であるが、近年の分子系統学的解析により、門内には複数のハプロタイプが存在することが明らかになった。異なった場所で採取した個体同士、そして異なったハプロタイプ同士の方が有性生殖の可能性が高いと考え、日本国内複数箇所での平板動物の採取、及びハプロタイプの決定を目指す。
|
| Causes of Carryover |
所属機関である筑波大学下田臨海実験センターの改修工事が当初の予定を超過し平成２６年度途中までかかったため、工事とそれに伴う研究室の引越が完了するまで、本研究計画の一部実験を開始できなかった。その時の実験や機器購入の遅れが現在も影響が残っており、次年度使用額が生じた。
|
| Expenditure Plan for Carryover Budget |
改修工事終了後はおおむね順調に研究が進展しており、今後も研究の進展具合に応じて未使用額を使用していく予定である。また、これまで得られている結果を学会で発表するための旅費も予定しており、未使用額をこの経費に充てることとしたい。
|
