2015 Fiscal Year Annual Research Report
地下生態系の「ブラックボックス」解明による群集理論の再検証
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26711026
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
東樹 宏和 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 助教 (60585024)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 群集 / 地下 / 生態系 / 次世代シーケンシング / ネットワーク / 真菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
地下生態系の生物圏は、微生物が主体となっており、生態学および進化生物学における巨大なブラックボックスとして、新たな研究アプローチによる生態学的研究が待たれている。群集の安定性や種多様化の従来の研究では、目視で調査可能な動物や植物の群集を対象に、理論の設計と検証が行われてきた。しかし、地球上のどの生態系においても、極めて多様な微生物が存在し、動物や植物と相互作用しながら複雑な群集を構成している。こうした微生物群集に実証研究の網を広げることができれば、これまでの群集理論や種多様化の議論が生物全般に適用できるほどの一般性を持つのか、それとも根本的な修正が必要なのか、判断の試金石を提供できる。 広大なフロンティアである地下の微生物群集を包括的に解析するため、申請者はこれまで、自動生物同定システムを核とする一連の最先端技術開発プロジェクトを主導してきた。次世代シーケンシングを用いたこのシステムは、環境サンプル中のありとあらゆる生物群の自動同定を可能にするだけでなく、微生物をめぐる肉眼では研究不可能な生物間相互作用を、群集全体レベルで一挙に解明する能力を持つ。 この新たな研究アプローチを利用して、地上の生態系を主な対象として構築されてきた生態学理論が、地下の生態系にもそのまま当てはめることができるのかどうか、膨大な生物群集データとともに明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究で、地下の微生物(真菌)とその宿主植物との関係性を表すネットワークの構造が、地域によって共通する部分と異なる部分をもっていることが明らかになってきた。また、地下の生態系で報告されてきた生物間相互作用のネットワーク(送粉共生ネットワークや種子散布共生ネットワーク)と比較して、地下の生物間相互作用ネットワークの構造が、根本的に異なる構造をもっていることがわかってきた。地上のネットワークで普遍的に存在すると報告されてきたnested構造は、しばしば、生物群集の安定性に寄与すると議論されている。しかし、地下の生物間相互作用ネットワークにおいては、このnested構造が壊れるような群集集合過程が存在し、地上のネットワークを基に構築されてきた理論が適用できない可能性がでてきた。4カ国の国際共同研究にもとづくこの成果は、Scienceの姉妹誌であるScience Advancesで出版された。その他にも、地下生物群集に関わる研究論文を3報出版した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの成果をふまえ、局所群集におけるネットワーク構造の解析から、より大域的な(メタ群集レベル)のネットワーク構造の研究へと、枠組みを拡大する。次世代シーケンシング技術に基づく申請者の研究アプローチの利点として、ハイスループットに群集調査を行える点が重要である。複数地点の相互作用ネットワークのデータを、メタ群集レベルのネットワーク構造の解析へとスケールアップすることにより、生物の移動分散を考慮した相互作用動態の理論を構築していけるものと期待される。 こうしたメタ群集レベルでの挑戦的な解析と並行して、局所群集内における解析も進める。昨年度までの研究では、主な焦点が栄養段階間の相互作用(宿主-共生者)におかれていたが、今後は、栄養段階内の相互作用にも注目する。具体的には、植物体内に共生する微生物どうしの関係性を、近年発展が著しい情報科学の解析手法をもちいて解析する。こうした共生者間の相互作用が宿主に与える影響についても考察したい。
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Causes of Carryover |
今年度は、国際共同研究を進めるために、5ヶ月間海外出張を行った。その期間、申請者自身の実験室における実験自体は進めることが不可能であったため、来年度にデータ収集を行うための消耗品費等を残した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
野外調査や分子実験で使用する機器や消耗品類の購入にあてる。
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Research Products
(18 results)