2014 Fiscal Year Annual Research Report
海産生物の種横断的な有害物質耐性・分解機構-汚染底質中の生物群に環境修復術を学ぶ
Project/Area Number |
26712017
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Research Institution | Fisheries Research Agency |
Principal Investigator |
伊藤 克敏 独立行政法人水産総合研究センター, その他部局等, 研究員 (80450782)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 汚染耐性生物 / フェナントレン / 海産ミミズ / コノハエビ / アベハゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
沿岸域は本来、種々の海産生物の稚仔を育む場(ゆりかご)として、海洋生態学的にきわめて重要な役割を担っている。しかしながら有害化学物質による局所的な底質汚染が近年、深刻な問題となっており、早急な環境修復技術の構築が求められている。これまでに、汚染底質に生息する海産ミミズがきわめて高い有害化学物質分解能を有することを発見し、他の汚染耐性生物にも同様の機能が備わっている可能性を指摘するに至った。本研究では、複数の汚染耐性生物の有害化学物質分解能を検討するとともに、種横断的な分解機構についてトランスクリプトーム解析等を用いた精査を行い、汚染耐性生物の底質浄化能を最大限活用した革新的な環境修復技術の構築を目指す。本年度は、汚染耐性生物が有害化学物質耐性・削減能を有しているのかを代表的な環境汚染物質の一つである多環芳香族炭化水素類(PAHs)を被験物質として実験を実施した。汚染耐性生物(環形動物海産ミミズ、甲殻類コノハエビ、魚類アベハゼ)を沿岸域にて採取し、PAHsの一つであるフェナントレン(Phe)に対する急性毒性試験を実施した。設定濃度の値から96時間半数致死濃度は、それぞれ2,380μg/L、800μg/L、3,080μg/Lであった。これらの値を既存の同一生物群(環形動物Nereis arenaceodentata 51μg/L、甲殻類オオミジンコ100μg/L、魚類シープスヘッドミノー478μg/L)と比較した結果、汚染耐性生物は約8倍から50倍Pheに対する感受性が低いことが明らかとなった。また、Phe削減能を検討した結果、海産ミミズ、コノハエビ、アベハゼは24時間で試験水中のPhe濃度を、生物を入れていない試験区と比較して、それぞれ20%、4%、3%に削減した。以上の結果から、汚染耐性生物は高い有害化学物質耐性・削減能を有していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究課題において非常に重要なポイントである汚染耐性生物が有害化学物質耐性・削減能を有しているのかを検証し、汚染耐性生物が環境汚染物質の一つである多環芳香族炭化水素類に対して、高い耐性及び削減能を有すること明らかにすることができた。この結果、今後の本課題の遂行において非常に重要である。しかしながら、まだ、有害化学物質1種類のみの検証結果であり、今後被験物質を増やし実施する必要があるため、おおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、被験物質を増やし、汚染耐性生物の有害化学物質分解能を再度検討すると共に、次世代シーケンサー等を用いたトランスクリプトーム解析を行い種横断的な分解機構の解明に取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
超微量分光光度計が予定購入価格よりも安価で購入できたこと、また、研究協力者としての契約職員の人件費を計上していたが、研究代表者と連携研究者とで実験の大部分を遂行し、契約職員の実務時間を削減することができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析を予定しており、その経費の補填に当てる予定である。
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Research Products
(3 results)