2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26713008
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
樽野 陽幸 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (20706824)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 味覚 / 塩味 / GCaMP |
Outline of Annual Research Achievements |
味覚は我々の食行動のコントロールに深く関与し、生存に欠かせない特殊感覚の一つとして発達してきた。末梢味覚センサーである味蕾における味覚受容・処理・統合の様式の全容を解明することは、医学・食品科学の観点からも注目されている。しかしこれまで、味蕾を構成する味受容細胞(以下、味細胞)の活動を測定することは容易ではなく、取得できる情報も限られていた。本研究では、遺伝子工学的カルシウムイオンインジケータタンパク質GCaMP3を特定の味細胞種に発現させて、舌上皮内にある正常形態を保った味細胞の活動をリアルタイムで可視化する方法論の開発を試みた。本年度は、塩味のセンサー分子であるENaCαサブユニット遺伝子のプロモーターの下流でCreリコンビナーゼを発現させるトランスジェニックマウスとGCaMP3レポーターマウスを交配して塩味細胞特異的にGCaMP3を発現するENaCα-GCaMP3マウスを作出し味細胞の塩味応答のライブセルイメージングを行った。塩味刺激に対する塩味細胞内におけるGCaMP3の蛍光輝度変化を記録できたが、S/N比が低く詳細な解析をするには不十分であったため、GCaMP3に比較して飛躍的に細胞内カルシウムイオン濃度変化への応答性が向上したGCaMP6に替えたENaCα-GCaMP6マウスの作出を行っている。以上の通り本年度は、シグナル強度の不足は認められたもののCre-LoxPシステムを用いてGCaMPバリアントを発現させることで味細胞種特異的な味刺激応答記録ができることが証明できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
GCaMP3による味細胞応答記録には成功したが、予想に反して刺激応答のS/N比が低かった。これは今後の詳細な味覚情報処理機構の詳細を研究していくうえで障害となりうると判断したため、直ちにGCaMP3に比較して応答のS/N比が飛躍的に向上した最新のGCaMP6に替えたシステムの構築を行った。このマウスを用いて、今後は当初の予定通りの研究を推進していく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、ENaCα-GCaMP6マウスを用いて、塩味受容・処理・統合機構の詳細を解明していく。 A.ENaC発現細胞の味刺激応答特性 味孔からのNaCl刺激にCa2+応答する細胞を同定した後に組織を固定し、免疫染色によって塩味応答細胞におけるENaC発現を解析する。 B.塩味による細胞興奮の分子基盤 塩味によるCa2+応答の分子機構を解析する。NaCl刺激によるCa2+応答が血管側細胞外Ca2+除去によって消失すればイオンチャネルによる細胞外からの流入が考えられ、各種電位依存性Ca2+チャネルの阻害剤の効果を解析してCa2+流入経路の分子基盤を薬理学的に同定する。また、電位依存性Na+チャネルの関与はtetrodotoxinを用いて解析する。本実験で薬理学的に関与が示唆された分子の発現を、Ca2+応答記録後に免疫染色によって確定する。一方で、細胞外Ca2+が無い状況でもCa2+応答を示す場合には、細胞内Ca2+ストアからのCa2+放出を考えて、この機構を薬理学的に同定する。 C.ENaCによるNa+輸送-味細胞興奮連関 塩味の負帰還系(順応機構)について、Na+/K+ ATPaseがENaCを介した一定のNa+流入に対して負帰還系として働き、生理的唾液[Na+]の範囲内で塩味応答性を確保する塩味受容に必須の分子であると仮説を立てた。これを検証する実験を行う。 D.塩味情報の統合機構 塩味細胞と周囲の他の味を担当する味細胞の連絡について、例えば甘味と塩味の単独・混合刺激をENaC阻害剤の有無の条件で行い、甘味細胞の応答を解析することで、塩味が他の味の受容に与える影響を検証する。逆に、他の味の受容が塩味受容に与える影響も検証する。
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Causes of Carryover |
本研究においては記録システムの構築、つまり記録機器導入に多くの予算を計上している。これまでに基本となる記録システムにかかる機器の購入は済ませている。しかしながら研究の進捗状況として、味細胞応答記録に最適なマウスモデルの作出が遅れていたため、記録システム最適化のための追加装置購入を延期してきた経緯がある。次年度はマウスモデルの準備も済み記録システムを稼働させる時期であるため、装置の追加購入を行う。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分として請求した科学研究費補助金については予定通りの実験試薬・マウス管理費として使用し、学術研究助成基金助成金の次年度使用額については、味細胞刺激装置となる灌流システムおよびその周辺機器の購入に充てる予定としている。
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