2015 Fiscal Year Annual Research Report
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26713014
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
吉本 真 公益財団法人がん研究会, その他部局等, 客員研究員 (50571668)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 肥満 / 細胞老化 / SASP / 二次胆汁酸 / 腸内細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
肥満に伴い増加する肺がんの発症機構を明らかにすることを目的としてマウスを用いた解析を継続した。前年度までに、肥満マウスに発症した肺がんの腫瘍部分において、肺の線維芽細胞に細胞老化やSASP(Senescence Associated Secretory Phenotype)因子の発現が見られたことから、周囲のがん化した細胞の増殖が炎症性サイトカインなどのSASP因子の働きによりさらに促進されていることが考えられた。そこで、肥満マウスにおける細胞老化の誘導因子としてDCAに注目した。マウスにおいては、肥満すると腸内細菌叢が変化し、DCAなどのDNAダメージ能を有する二次胆汁酸が産生される。DCAは腸肝循環を介して肝臓の線維芽細胞である肝星細胞に細胞老化誘導し、肝がんの発症を促進することから、DCAが肺がんの発症促進に関与する可能性について検証した。肥満マウスにUDCAやDFAIIIを投与することでDCA産生を阻害したところ、肺がんの発症が抑制された。このことから、肥満により増加したDCAが血液を介して肺がんの発症促進にも関与することが強く示唆された。 また、肥満マウスの血中胆汁酸について詳しく調べてみたところ、二次胆汁酸のDCAは血中においては遊離型DCAよりも抱合型DCAの割合が多いことが分かった。抱合型DCAは遊離型DCAとともに細胞のODC(Ornithine Decarboxylase)活性を上昇させて、ROSの産生を誘導することが知られている。さらに、ODCはポリアミン代謝を促進することでがん細胞の細胞増殖を促進することが報告されている。これらの報告から肥満で増加した抱合型DCAがODCの活性化を介して線維芽細胞にROSの上昇による細胞老化や、がん細胞の増殖活性を誘導している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、肥満による肺がん発症促進機構として、肝がんの発症機構と同様に肥満で増加するDCAなどの二次胆汁酸が肺の線維芽細胞に細胞老化と炎症性サイトカインなどの産生(SASP)を誘導することでがん化を促進する可能性が強く示唆されている。今後は肺組織のメタボローム解析などを行い、肺組織にDCAが存在しているかどうかを明らかにしていく予定である。 一方で、肥満におけるDCAなど二次胆汁酸による細胞老化誘導が線維芽細胞特異的であるメカニズムや、がん細胞など線維芽細胞以外の細胞に対する二次胆汁酸の作用などは全く未解明である。本年度までの解析で、DCAにより誘導されるODCの活性化がこれらの点に重要な役割を担っている可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は計画通りに研究を推進する。まず、肺の線維芽細胞に細胞老化とSASPを誘導する因子を同定するために、肺のメタボローム解析を行う。メタボローム解析により、細胞老化誘導因子としてDCAだけでなく新規の因子が見つかる可能性が期待できる。 また、今後は、肥満で増加したDCAの下流因子として〝ODCの活性化とポリアミン代謝経路”にも着目し詳細な解析を行うことで、肥満による肺がん促進機構について新たな理解が得られるよう進めていく。肺がん腫瘍部におけるポリアミン代謝遺伝子群の発現や各種ポリアミンの産生量などを免疫染色やメタボローム解析の結果から調べ、肺の線維芽細胞特異的な細胞老化の誘導機構や発がんに与える影響を明らかにする。さらに、ポリアミン合成を阻害することで肥満による肺がんや肝がんの発症を抑制できるかどうか調べる。
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