2015 Fiscal Year Annual Research Report
機能的な制御性T細胞のin vitro創出を目指したCD4T細胞分化機構の研究
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26713019
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
関谷 高史 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (80519207)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 免疫学 / 自己免疫疾患 / T細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
免疫システムは多様な病原因子の排除に機能する一方、自己抗原に対しては抑制的に機能しなければならない。その高度に制御された免疫応答の根幹を担うのが、胸腺におけるCD4T細胞の適切な発生分化である。具体的に述べると、自己分子を攻撃しかねないCD4T細胞には細胞死による排除、もしくは免疫抑制性の「制御性T細胞(Treg)」分化が誘導されることにより、自己細胞や自己組織に対する免疫反応が防がれている。我々の研究グループは先行研究で、転写因子Nr4aがCD4T細胞の分化制御において必須の役割を担っていることを見出している。昨年度までの研究では、その胸腺におけるCD4T細胞の発生分化を制御する分子機構をNr4aに焦点を当て解析し、免疫系の恒常性が形作られる仕組みや自己免疫疾患の発症機序の解明を試みてきており、以下に述べる点を明らかとしてきている。 まず、我々は胸腺におけるCD4T細胞の運命決定を制御する分子イベントのうち、Nr4aに担われるイベント、担われないイベントを区別するため、Tregが分化する過程の前駆細胞を、複数のステージに分類し、それぞれのステージにある細胞の詳細な解析を行った。その結果、それらNr4aにより担われる分子イベント、担われないイベントそれぞれを明らかとし、Nr4aはTreg分化において、中期から後期にかけて重要な機能を担っていることを明らかとした。さらに、Nr4aはその中期から後期にかけた分化段階で、IL-2/CD25やTNFSF/TNFRSFといった、Treg分化で重要とされてきたシグナル伝達経路と協調的に作用し、Tregの主要転写因子「Foxp3」の発現を促進する機能を持つことを明らかとした。また、Nr4aにより発現誘導されたFoxp3は、今度はNr4aの発現を正に制御すること、つまり両分子間でポジティブフィードバック的相互作用が存在することを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の、昨年度までに達成を目指していた研究は、まず、Nr4aがCD4T細胞運命決定を引き起こす分子機構を解明することであった。特に、予定通り、'Treg分化がNr4a発現誘導の直前で止まった前駆細胞'を遺伝学的手法で捉え、強力なツールとして用い、それらの細胞を特徴付けることに既に成功していることから、順調に進んでいると評価できる。もう一つの目標としては、Nr4a共役因子の探索を行うことであった。昨年度までの研究で、それら因子の同定に留まらず、転写活性化型複合体と不活性化型複合体を明確に区別し、それぞれのTreg分化における機能も解析するすることにも成功しており、当初の計画以上に進展していると評価できる。 さらに、最終年度の目標の一つである、前年度までのの研究を手掛かりとして見出された候補因子の中から、Nr4aとの共発現によりTregと同様の遺伝子発現パターンや抑制能を誘導する遺伝子セットを同定し、機能的なTregのin vitroでの創出を試みるという目標も、予定を前倒しにして着手しており、予備的なデータが得られている。この点からも、当初の計画以上に進展していると評価できる。最後に、これらの研究の過程で、Nr4aを失ったTreg前駆細胞が炎症性疾患の病原性を獲得するという予想していなかった興味深い知見を明らかとしつつあり、以上の点を合わせて考慮し、当初の計画以上の進展と評価するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は最終年度であり、以下に述べる疑問点を明らかとし、研究の完遂を目指す。 まず、昨年度までの研究で、Nr4aを欠損したTreg前駆細胞は、中期段階で分化が止まることを明らかとしている。さらに、予想していなかった結果とし、この分化が止まった細胞が炎症性疾患の病原性を獲得するということを示すデータを得てきている。従って、このNr4aの欠損によって分化が止まったTreg前駆細胞がどのように、その炎症を惹起する能力を獲得するのかを明らかとすることを一つ目の目標とする。 次に、昨年度までの研究で、Nr4aに依存しないTreg分化プログラムとして、Tregによる機能で重要な役割を担う様々な分子発現(CTLA-4, CD25, IL-10など)を明らかとしている。従って、これらの分子とNr4aを共に発現させることで、機能的なTregをin vivoで作製することが可能になると期待されるため、その点を試みていく予定である。 次に、昨年度までの研究でNr4a共役因子を同定してきたが、本年度は特にこれら共役因子の機能を中心に検討することで、Nr4aのヒトT細胞制御における役割に関し手掛かりを得ていきたいと考えている。 以上、最終年度である点を考慮し、上半期に以上の点を明らかとした上で、本年度内の論文発表を目標としたい。
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Causes of Carryover |
予定していた、網羅的遺伝子解析の受託解析のサンプル調製が期間内に完了しなかったことが主な理由である。また、昨年度内での論文投稿を予定しており、執筆を行っていたが期間内に完了せず、予定していた論文校閲費を支出しなかったことも理由の一つである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述、網羅的遺伝子解析のサンプル調製はほぼ完了しており、遅くとも上半期中には受託解析を依頼できる運びとなっている。さらに、論文の執筆もほぼ完了しているため、校閲費も出費予定である。
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