2015 Fiscal Year Annual Research Report
RANKL逆シグナルの発見に基づいた関節リウマチ発症機構の解析
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26713045
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池淵 祐樹 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20645725)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 関節リウマチ / 骨・軟骨代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、RANKL分子が骨代謝において双方向性のシグナル分子として機能することを見出したことに端を発し、関節リウマチの発症・増悪時に生じる種々のバランス破綻へ、一連のシグナル経路がどのように寄与しているか解明することを目的とする。 軟骨細胞のモデル細胞として汎用されるマウスEC細胞由来ATDC5は、インスリン存在下で増殖軟骨細胞から肥大軟骨細胞へと分化し、その形質をよく保持する。これに対し、細胞内へのRANKL逆シグナル入力活性を有する抗RANKL抗体を添加すると、増殖軟骨細胞への分化は抑制された。関節リウマチの発症時には、炎症性肥大滑膜(パンヌス)内の種々細胞にRANKL逆シグナルが入力されやすい環境にあることが想定され、破壊された軟骨組織の回復が制限される原因の一つである可能性が考えられる。一方で、同様にRANKL分子の架橋能を有し、骨芽細胞での検討からはRANKL逆シグナルの入力活性が認められているW9ペプチドは、むしろ増殖軟骨細胞への分化を顕著に促進し、in vivoでも軟骨組織の再生能を評価されている。W9ペプチドを誘導体化し、分子間の凝集性を高めることで、ATDC5への分化誘導能はさらに高まったことから、軟骨細胞表面に発現するRANKL以外の分子を標的として結合し、その下流のシグナル活性化が軟骨細胞の分化を正に制御していることが想定された。現在、W9ペプチドの標的タンパク質および下流のシグナル経路の探索を、プロテオミクス、次世代シークエンスを中心としたオミクス手法で試みている。 また、in vivoでRANKL逆シグナルの寄与を評価するのに必要な、RANKL点変異マウスの拡大を進めた。同時に、in vivoでの評価のために大量に必要となる、抗RANKL抗体の効率的な産生系の構築を行った。高産生株の選択はほぼ終了し、精製法などを最適化中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
関節リウマチの発症・増悪サイクルに関わるT細胞、および滑膜細胞におけるRANKL逆シグナルの役割は、未だに十分な解析ができていない。また、in vivoでの表現型解析に使用するRANKL点変異マウス、抗RANKL抗体の拡充が当初の予定よりやや遅れてしまっているため、標記のように判断した。ただし、マウス、抗体ともに十分量確保できる目処は立ちつつあり、次年度以降の解析に大きな支障はないと考えている。 一方で、2年目より解析を進めている軟骨細胞においては、共にRANKL逆シグナル入力能を有する2つの刺激担体(抗RANKL抗体、W9ペプチド)の活性の差から、軟骨細胞の分化制御に関する新たな知見が得られるものと期待している。これまで、軟骨細胞の初期分化において中心的な役割を担うと考えられてきたTGFbeta1の阻害剤存在下においても、W9ペプチドによる分化促進作用はほぼ影響を受けないことが確認できている。関連して、種々の細胞内シグナル阻害剤を用いたスクリーニングや、W9ペプチド刺激後の遺伝子発現変動を次世代シークエンスによる網羅的手法で探索しており、関節リウマチの病態進行にも関わる軟骨代謝機構の理解を深めるものと考えている。また、表面にW9ペプチドを固相化したビーズを用いて、W9ペプチドの結合標的となるタンパク質の同定も試みている。W9ペプチド自体は、物性の不安定さから製剤化は困難と推測されるが、同様の活性を有する抗体様分子が作出できれば、現状では未だ十分に確立されていない軟骨再生治療法の新たな提案にも繋がりうると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
軟骨細胞を対象とした解析は、(1)ショットガン・プロテオミクスによるW9ペプチドの結合標的タンパク質の同定、および(2)種々阻害剤によるW9ペプチドに対する抑制効果、また次世代シークエンスでの遺伝子変動パターンの解析から、(1)の下流にある細胞内シグナル経路の解明を進める。細胞内シグナルの活性化パターンにはクロストークも多く、(2)のみでは説明が困難な際には、タンパク質のリン酸化状態を網羅的に定量するリン酸化プロテオミクスの実施も検討する。解析に使用する高分解能のフーリエ変換質量分析計(Orbitrap)は他の研究課題でも使用しており、遂行に大きな問題はない。標的タンパク質がある程度特定できた段階で、shRNAを用いた遺伝子抑制等の手法で、着目するシグナル発生の起点となる(1)のW9ペプチド標的タンパク質を決定する。さらに、(3)RANKLと同様に、標的分子の架橋能を有する抗体をファージ・ディスプレイ法を用いて取得する。最適な抗体配列の決定と、その後の効率的な産生・精製方法は既に構築済みである。 また、当初より予定しているT細胞、滑膜細胞におけるRANKL逆シグナルの寄与を検証する。不死化培養細胞株に加えて、マウスよりナイーブT細胞、滑膜細胞をそれぞれ単離し、その細胞運命への影響を評価する。T細胞であればいずれのT細胞サブセットへの分化を促進・抑制するのか、また滑膜細胞の場合には主にその細胞増殖制御への関与を検討する。 コラーゲン誘発性関節炎モデルを用いたin vivo解析は、RANKL点変異マウスの個体数が十分に確保できた段階で検討を開始する。一般に、硬組織の標本作成、解析には時間を要するが、短時間での標本作成を特徴とする川本法にも対応可能なミクロスタットの準備を進めており、今後の解析は十分に遂行できる。
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Causes of Carryover |
概ね、計画通りに実験試薬や消耗品を購入し、物品費として計上している。一方で、進行中の予備的な検討結果も多く、研究成果として学会での報告や論文投稿には至っていない。そのため、学会参加のための旅費や英文校正・投稿費用として計上していた費用を中心に未使用分が生じ、次年度以降に持ち越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
引き続き、種々のin vitro・vivo解析を実施するために必要な実験試薬や消耗品の購入のために物品費を、また研究成果の報告のために、学会参加費として旅費を、論文投稿用に英文校正・投稿費用をその他の区分で使用予定である。その他の費用区分には、所属する研究機関では解析が困難なものの受託解析費用も含む。
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