2014 Fiscal Year Research-status Report
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26730071
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Research Institution | Toyo Gakuen University |
Principal Investigator |
中村 哲之 東洋学園大学, 人間科学部, 講師 (10623465)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 比較認知 / 認知心理学 / 知覚心理学 / 運動情報処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物は生存していく上で,環境内の重要な標的(捕食者,獲物,同種他個体など)がもつ運動情報に対して,迅速かつ正確に注意を向けることが必要である。視覚探索課題を用いてヒトとハトを比較した申請者らの先行研究から,個々の刺激の運動情報処理に関しては種間で類似した結果を得た一方で,複数の刺激間の関係性についての認識では顕著な種差を確認した。本研究では,運動する複数の刺激に対する注意の向け方がヒトとハトでどのように異なっているのか,その詳細を明らかにし,こうした運動情報処理の生態学的意義について検討する。静止刺激を用いた知覚的体制化の研究など,本研究と関連する先行研究の再位置づけや体系化,隣接研究領域への新たな視点の提供を行う。 運動情報と視覚的注意の関係性に関する生態学的意義を検討するため,3つの実験をハトとヒトで行う。実験1ではBiological Motion(生物学的運動)の知覚を調べる。斉一運動刺激の知覚(先行研究の実験C)の結果と併せて,事物の認識過程における運動情報の知覚的体制化に関する生物学的な要因を考察する。実験2では運動情報の体制化を促す条件の検討として,知覚的体制化を促進すると考えられる実験的操作(刺激呈示領域全体を斉一運動する物体と同期運動させる)を加えた場合に,標的探索の方法がどのように変化するかを調べる。実験3では,「個々の刺激の運動情報のみを手がかりとして利用できる試行」と「複数の刺激間の関係性も手がかりとして利用できる試行」の出現頻度を操作したときに,標的探索の方法がどのように変化するかを調べる。研究の取りまとめとして,先行研究の結果と併せて,運動情報と視覚的注意の関係性に関する生態学的意義について検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載した,実験2を実施した。斉一運動する物体と連動して刺激呈示領域全体を動かすと,ヒトでは,それらが一つのまとまりとして知覚される(e.g., Matsuno & Tomonaga, 2006)。このような操作は,刺激呈示領域全体に注意を向けやすくすると考えられ,刺激呈示領域が静止していた実験Cで知覚的体制化が生じなかったハトでも,体制化が促進される可能性がある。本実験では,以下3種類の試行を行った。 (1)妨害刺激が斉一運動し,刺激呈示領域も妨害刺激と同じ方向に連動して動く。 (2)妨害刺激が斉一運動し,刺激呈示領域は妨害刺激と異なる方向に動く。 (3)個々の妨害刺激は互いに異なる方向に動き,刺激呈示領域はランダムに選ばれた1つの妨害刺激と同じ方向に連動して動く。 刺激呈示領域の運動により,ハトにおける斉一運動情報の体制化が促進されるのであれば,(1)における標的探索が最も容易になると予想した。ヒトの場合は,予想通りの結果を得たのに対し,ハトの結果は予想に反し,(3)に比べて(1)の試行で静止した標的の探索が難化した。本実験の結果から,ハトは複数の斉一運動する物体を知覚的に体制化していないことが示唆された。斉一運動する物体と連動して刺激呈示領域全体を動かすことにより,静止した標的の探索が妨害される本実験の結果は,ハトの知覚様式がヒトのそれと異なるものであること,さらには先述した先行研究からチンパンジーのそれとも異なるものであることが分かった。静止図形を用いた先行研究から,ヒトの全体志向的な情報処理傾向に対して,ハトでは局所志向的な情報処理傾向が示唆されてきた。本実験の結果は,こうした情報処理傾向の違いが,運動する物体の情報処理場面においてもあてはまること,すなわち領域一般的なものであることを示唆するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要に記載した,実験1:BiologicalMotion の知覚(運動情報の体制化に関する生物学的意味の影響)を実施する。先行研究から得られた知見と照らし合わせることで,事物の認識過程における運動情報の知覚的体制化の役割に関して,その生物学的要因の寄与を検討することを目標とする。 実験3:出現頻度が運動情報の体制化に与える影響の実施をおこなう。「個々の刺激の運動情報のみを手がかりとして利用できる試行」と「複数の刺激間の関係性も手がかりとして利用できる試行」の出現頻度を操作したときに,標的探索の方法がどのように変化するかを調べる。 研究全体の取りまとめとして,申請者の先行研究と実験1~3の結果から,運動情報と視覚的注意の関係性について,ハトとヒトの生態的な違いと関連づけた議論を行うことで,その生態学的意義を検討する。静止刺激を用いた知覚的体制化の研究との関連を考察する。至近要因の解明に努めてきたヒトを対象にした先行研究に対して,視知覚系の進化の過程という点からの意義づけを目指す。哺乳類・霊長類の脳研究との比較を視野に入れた,鳥類における知覚機能に関連した神経解剖学的研究における成果(Nguyen et al., 2004 など)と照らし合わせ,脳機能メカニズムとの関連についても考察する。
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Causes of Carryover |
(1)実験や分析に使用する装置の購入に関して,一部が予定よりも購入が遅くなってしまったこと (2)海外や国内の学会出張,研究打ち合わせが,所属機関の業務の関係等により,出席を見合わせるものがあったこと 以上の2つの理由により,当初の予定額よりも初年度の使用分が少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の理由(1)に関して,初年度購入できなかった装置を次年度に購入する予定である。上記の理由(2)に関して,所属機関の業務を事前にきちんと把握することで,次年度は海外や国内の学会出張,研究打ち合わせを効果的におこなうことを予定している。
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