2015 Fiscal Year Research-status Report
ヒトとチンパンジーにおける社会性の基盤としての同調行動に関する比較認知科学的研究
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26730074
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
服部 裕子 京都大学, 野生動物研究センター, 助教 (60621670)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | チンパンジー / 同調 / 社会性 / 進化 / 比較認知科学 / 霊長類 / リズム運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、外部のリズムに対する自然な反応について、検討した。前年度までの実験では、タッピングといった反復運動を既に行わせている状態で、リズム刺激を提示し、その運動のタイミングが受ける影響を調べていたが、今年度はチンパンジーを対象に、そうした運動時以外の自然な状態での物理的・社会的リズムに対する反応を調べた。実験室において、静止時に様々な種類のリズム刺激を提示し、反応をビデオにより記録し分析を行った結果、特に反復運動を行っていない状態でも、チンパンジーも音のリズム刺激により運動が誘発されることがわかった。単純なリズム音よりも、複雑なリズムの方がより動きが誘発され、持続時間が長いこともわかった。刺激によって誘発された運動は、チンパンジーがディスプレイ時に見せるロッキング等の体の動きに類似していることから、生物的な身体制約が動きの種類に関係していると思われる。また、主にメス個体よりもオス個体の方が、反応強度が強かったことから、チンパンジーにおけるリズムへの感受性にはヒトには見られない性差が存在する可能性が示唆された。社会的な刺激(ヒト実験者の反復運等)の場合でも類似した効果が観察されているため、今後効果をさらに比較する。また、発声や覚醒度の上昇など、リズム刺激の提示は情動状態に対しても影響をおよぼす事が示唆された。リズム刺激によって誘発された反応速度がどの程度刺激速度と相関しているのかについては、現在分析中であるが、持続時間については、リズム刺激に含まれる複雑さが、ある程度関係していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究を行っている施設では、現在繁殖計画が行われており、メス個体の発情状況によってオスのチンパンジーのデータの収集が遅れることがあったが、想定内の範囲であり、そうした生理リズムを考慮して実験計画を修正しながら研究を継続している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、自然な相互交渉下で用いられるコミュニケーションの時間的随伴性およびリズム特性を調べる。具体的には、チンパンジーを対象に、日常の飼育場面で観察されるパントフート等の発声とそれに対する他個体からの応答を記録し、発声が生成された時間と、応答があった時間の間隔を分析する。それらのデータと、ヒトの大人および母子間の会話を分析した先行研究とを比較し、ヒトとチンパンジーにおいて個体間のシグナルを送り合う時間的随伴性を比較する。また、ビデオ記録を用いて、発声個体とそれに応答した個体についての社会的関係がどのように影響するのかも分析する。社会関係の強さについては、 (A)最も空間的に近い場所に滞在していた個体(nearest neighbor)、(B)グルーミングの頻度、 (C)食物のやり取り等を分析し、それらをもとに判定する。さらに、各個体のパントフートを録音し、プレイバック実験を行うことで、実際に強い関係形成をもつ個体が特定のリズムで応答するのかについて実験的にも検討する。また、ヒトを対象に、発話や身振りを記録した後にお互いに対する印象評定をしてもらい、実験中に見られたお互いのリズム同調が印象評定に影響をあたえるかを調べる。
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