2015 Fiscal Year Research-status Report
脳リズム構造に着目したマルチモーダル感覚情報処理機構の解明
Project/Area Number |
26730078
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
青山 敦 慶應義塾大学, 環境情報学部, 准教授 (40508371)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 神経科学 / 脳・神経 / 脳情報科学 / 脳機能計測 / 感覚情報処理 / 多感覚統合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,通常では有り得ない特殊空間,特に左耳(右耳)に到達した音が右耳(左耳)から聞こえるような立体音響へ順応する過程の脳リズムを調べることで,ニューロン活動の量的な議論に終始しない動的なマルチモーダル感覚情報処理のメカニズムの解明を目指す.平成27年度においては,平成26年度に構築したウェアラブルな左右反転立体音響を用いて,可能な限りの保護観察の下,この特殊空間への約1ヶ月間にわたる順応過程を調べた.実験協力者には,左右いずれかに出現する視覚手掛かりと音の組み合わせに対して,一致か不一致かを右示指と右中指で応答する視聴覚照合課題を行って貰い,その際の脳磁界データの解析を行った.視聴覚空間情報に関する一致刺激に対して,視聴覚連合野において1週目から誤差伝播に固有の複合脳リズムが徐々に見られ始め,以後,増大していった.この間,主観的な違和感も1週目程度で減少し始め,その後は漸近的に減少していった.また,1~3週目では一致刺激より不一致刺激で大きかった聴覚野の誘発応答の強度が,約1ヶ月後には一致刺激で僅かに大きくなった.同様に,不一致刺激より一致刺激で短かった平均反応時間も,約1ヶ月後に不一致刺激で僅かに早くなった.左右いずれかの音に対して,同側あるいは対側の示指で応答する選択反応課題においても,類似の傾向が観測された.したがって,左右反転立体音響への長期にわたる接触においては,①新しい環境の統合ルールに基づいて視聴覚情報の誤差を補正し,知覚に影響を及ぼす視聴覚連合野由来の早い順応と②統合する視聴覚情報の優先度が可塑的に変化し,行動に影響を及ぼす聴覚野由来の遅い順応が存在することが分かり,平成28年度の研究に備えることができた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目となる平成27年度においては,平成26年度に構築したウェアラブルな左右反転立体音響を用いて,この特殊空間への長期順応過程におけるマルチモーダルな感覚情報処理の変遷を当初の予定通りに調べることができた.具体的には,約1ヶ月間にわたって,視聴覚照合課題と選択反応課題の遂行下における一週間毎の脳磁界を解析し,当研究課題の肝となる誤差伝播に固有の複合脳リズムや誘発脳活動の変化を明らかにすることができた.また行動レベルにおいても,感覚受容に対する違和感や反応性の変化を明らかにでき,想定していた通り,短期では見られなかった現象を脳レベルと行動レベルの双方で明らかにできた.これらの知見は,動的なマルチモーダル感覚情報処理のメカニズムの解明に繋がるものであり,平成26年度に引き続き,平成27年度の計画も概ね順調に実施できた.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度においては,平成27年度に引き続き,ウェアラブルな左右反転立体音響を用いて,長期順応過程における視聴覚照合課題や選択反応課題に対する脳磁界の解析を進める.視聴覚照合課題については,視聴覚空間情報の明示的/非明示的な照合機構を調べる2課題を実施し,トップダウン処理の影響等を検討する.並行して,腹話術効果等の行動実験のデータを解析し,多角的に知見の集積を行う.最後に,得られた種々の知見を総合し,ニューロン活動の量的な議論に終始しない動的なマルチモーダル感覚情報処理のメカニズムに迫る.平成27年度と同様に,液体ヘリウムの価格高騰もあって,MEGの使用機会が限られる可能性があるが,その場合には,これまでに計測したデータを使用したり,MEGと同様に時間分解能の優れるEEGを使用したりし,当初の計画通りに進める.
|
Causes of Carryover |
大学内での学事とスケジュールが折り合わず,当初予定していた国際学会に参加することができなかったため,次年度使用額が生じた.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該年度に予定していたように学会参加のための旅費や参加費,英文校正費として使用することを予定している.
|
Research Products
(5 results)