2015 Fiscal Year Research-status Report
放散虫骨格構造の水平分布に基づく北極海環境指標の探求
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26740006
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Research Institution | Marine Ecology Research Institute |
Principal Investigator |
池上 隆仁 公益財団法人海洋生物環境研究所, 海生研中央研究所, 研究員 (70725051)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放散虫 / 北極海 / 海氷減少 / 海洋生態系 / 環境指標 / プランクトン / マイクロフォーカスX線CT / 物質循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、劇的な海氷減少が進行している北極海の海氷下の環境変化をモニターし、多様な骨格構造を持つ放散虫群集の環境指標としての有用性を明らかにすることである。 北極海において採集した海洋沈降粒子およびプランクトン試料の生物群集解析を行い、その結果、放散虫の新種2種を発見した。そのうち1種は現在までに北極海のみで生息が確認されていることから、生息海域に因んでJoergensenium arcticumと命名した。本種の記載には生物顕微鏡、走査型電子顕微鏡による従来の観察方法に加え、放散虫の種記載では初めての試みとなるマイクロフォーカスX線CT(MXCT)を用いた。放散虫の種の同定には放散虫骨格の外形だけでなく、内部構造の観察が重要であることからMXCTを用いることでより客観性に優れた形態情報を示すことが可能となった。多層曳プランクトンネットにより本種の生息深度を調査した結果、北極海の水深100-250 mに存在し、最も水温の低い太平洋冬季水(-1.7℃)と呼ばれる水塊に特徴的に生息することが分かった。セジメントトラップによる時系列観測からは本種の生産量が海氷生成に伴うブライン水(低温・高塩分水)の沈み込みと関連している可能性が示された。太平洋冬季水は海洋二酸化炭素分圧(pCO2)が高く、炭酸塩飽和度Ωが低いため、北極海における海洋酸性化のリスク評価や将来予測を進める上で注目すべき水塊である。また、太平洋冬季水は貧栄養な海盆へ陸棚の栄養塩を供給する重要なソースであり、今後海氷が消失していくであろう夏季の生物生産を左右し得る。太平洋冬季水に生息する種を追跡することで、急激に変わりゆく北極海の海洋環境をモニターする指標生物として今後役立つことが期待される。 以上の研究成果は、国際誌に発表済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はノースウィンド深海平原の観測点NAPの3年目のセジメントトラップ試料、チャクチ深海平原の観測点CAPのセジメントトラップ試料について分析結果をまとめる予定であったが、試料の入手時期が予定よりも大幅に遅れたため、分析はおおむね終えることができたものの、論文として成果をまとめるには至らなかった。しかしながら、既存の試料を用いて放散虫群集の北極海環境指標としての有用性について新たな知見を得たこと、マイクロフォーカスX線CTを用いた新たな研究手法を試み、学術雑誌に公表できたことから、当初の目標に向けておおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
ノースウィンド深海平原の観測点NAP、チャクチ深海平原の観測点CAPのセジメントトラップ試料について分析結果をまとめ、学術雑誌に投稿する予定である。両観測点の放散虫群集を比較することで、両観測点の水塊の違いと海洋生態系に及ぼす影響について議論する。また、北極海の海洋生態系における放散虫群集の位置付けを明らかにするため、放散虫群集の遺伝子解析及び共生藻類の有無や系統関係についての調査が必要である。そのため、夏~秋にかけて北極海域での試料採集を予定している。
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Causes of Carryover |
所属研究機関における本研究以外の職務との兼ね合いから、北極海域の試料採集計画を次年度の実施に変更したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
分析のための消耗品の購入および、北極海調査、海外を含む他の協力研究機関との打ち合わせや学会発表のための旅費を計上する。成果報告のための論文投稿料、別刷り代を計上する。
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Remarks |
共同研究機関による論文内容の広報ページのうち「北極海太平洋冬季水で放散虫新種を発見~変わりゆく北極海における新たな海洋環境指標種~」の記事が本研究の成果
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Research Products
(8 results)