2015 Fiscal Year Research-status Report
匂い成分と呈味性ペプチドの相互作用による食品風味への影響に関する多面的解析
Project/Area Number |
26750025
|
Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
大畑 素子 北里大学, 獣医学部, 助教 (60453510)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 風味改善効果 / 匂い成分 / ホエイタンパク質分解物 / リナロール |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度(初年度)に実施した研究の課題として、香草(タイム)および茶葉(ヌワラエリア)の匂い画分における香気寄与成分について、AEDA法の再現性および同定・定量の再現性を確認する必要があった。本年度は、まずこれについて精査した。 その結果、タイム匂い画分では柚子、シトラス様の香気を有するLinaloolがFD-factor=5の6乗と最も高い寄与度で検出され、GC-MSにおける標準物質とのマススペクトルパターンおよび保持時間の一致、Kovats' Indexの一致から同定した。一方、ヌワラエリア匂い画分においても、LinaloolがFD-factor=5の2乗と最も高い寄与度で検出、同定された。2種の異なる香草および茶葉から、同物質が最も寄与度の高い物質であることが判明したことは非常に興味深い結果であり、ホエイタンパク質分解物(WPH)の不快な風味を抑制していた物質はLinaloolである可能性が示された。そこで次に、食品添加物グレードのLinaloolを用いて、WPHの風味改善を検討した。まず、訓練された11名のパネリストによって、WPHにLinaloolを添加し、Linaloolの認知閾値および検知閾値を検索した。その結果、認知閾値は0.06μg/mlであり検知閾値は0.04μg/mlであり、さらに興味深いことに検知閾値において三点比較法を用いた場合有意(p<0.0001)に識別できることが判明した。したがって、Linaloolの検知閾値では、WPHの風味に何らかの影響があったと考えられた。検知閾値にてQDA法でWPHの風味を評価したところ、「苦い」「渋い」「まずい」「しつこい」という評価項目において有意(p<0.05)に強度が低くなることが示された。一方でノーズクリップによって鼻腔内への空気の流入を遮断した場合は、Linaloolを添加しても変化がなかったことから、嗅覚と味覚の相互作用によりWPHの風味が改善したと示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、「研究実績の概要」に示したことのほかに2つの追加実験を行っている。まずは、嗅覚と味覚の相互作用であることを実証するため、人工唾液を調製しバイアル瓶にWPHとLinaloolと共に混合し、37℃(体温付近温度)でヘッドスペース部の固相マイクロ抽出を行いGC-MS分析した。その結果Linalool添加によって新規物質が生成されることがないことを確認した。 また、平成27年度実施予定であったマウスを用いた二瓶選択嗜好試験も実施した。当初の予測では、WPHは忌避され、linalool添加WPHの嗜好性が向上(すなわちマウスによる飲量増加)すると考えたが、実際は、ヒトにとってはWPHは不快味を有するが、タンパク分解物であることからペプチド含量が高くマウスによる飲量は多いという結果であった。このことから、WPHは生理的にマウスが好むと推測されたため、Linalool添加による風味改善の評価には、マウスによる二瓶選択嗜好試験を用いることができないと結論付けた。 一方で、ヒトによる風味改善効果は十分に明らかにできたことから、本研究は順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、研究計画通り、他の苦味物質(アルカロイド類およびポリフェノール類)に対するLinaloolの影響を検討する。ただし、LinaloolはWPHの「苦味」だけを抑制したのではなく、不快な風味と考えられる数個の特徴すなわち「苦い」「渋い」「まずい」「しつこい」を抑えるということがこれまでの本研究で判明したことから、アルカロイド類やポリフェノール類の「苦味」のみの抑制効果が見られるかは不明であり、検討する必要がある。 また、Linalool以外に、ヌワラエリアおよびタイムの匂い画分から香気寄与成分としてIsothymolおよびα-Terpineolも検出されていることから、この2成分についてWPHの不快味抑制効果があるも検討する予定である。
|