2015 Fiscal Year Research-status Report
コンピュータ・シミュレーションの科学技術史構築に向けた理学・工学事例の比較考察
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26750097
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
有賀 暢迪 独立行政法人国立科学博物館, 理工学研究部, 研究員 (90710921)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シミュレーション / 台風 / 数値予報 / 可視化 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.本研究は、【a. 詳細分析】と【b. サーベイ調査】を通じて行われる。平成27年度は、【a.】については前年度に引き続いて1950年代の日本における台風のシミュレーションを主に取り上げ、【b.】についてはいくつかの分野の状況について広く情報を集めることとした。 (1)【a.】では、前年度に文献資料に基づいて検討した内容について学会発表を行い、また論文としてまとめた。そのさい、単独の論文として公表するのではなく、近現代の気象学における観測とシミュレーションをテーマとした特集を自ら企画し、その一環として原稿を執筆した。さらにこれと前後して気象学関係者からヒアリングを行ったが、とりわけ、1950年代の台風の数値予報研究に実際に関わった研究者からも話を聴くことができたのは貴重な成果である。 (2)【b.】では、研究者の訪問や関連するシンポジウムの聴講を通じて、科学技術諸分野におけるシミュレーションの歴史と現状についての情報収集を進めた。具体的には、統計物理学、プラズマ物理学、航空工学、計算化学などの研究者からヒアリングを行った。その結果、シミュレーションの歴史においては可視化技術の進展が無視できない重要性を持っていたことが判明してきた。このほかに、1960年代の気象の数値予報や1970年代の数値解析技術の発達に関する貴重な資料も収集することができた。 2.以上のほか、前年度に引き続いて、シミュレーションの科学論をテーマとするワークショップを開催した。科学論と自然科学諸分野の若手研究者9名の参加を得て、シミュレーションの特質をどのような形で理解すべきかについて議論を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、【a. 詳細分析】について、当該年度の後半に事例分析B(構造力学)の文献読解も行うこととしていた。しかしながら、所属機関の業務として国際シンポジウムの企画・運営を中心的に担うという大きな業務が年度途中に生じてきたため、年度後半は本研究に十分なエフォートを割くことが不可能となった。なお、【b. サーベイ調査】の実施とワークショップの開催については、当初の予定から若干の変更はあるものの、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
【a. 詳細分析】については、これまでの進捗から判断して、事例分析B(構造力学)の終了時期を当初予定より遅らせる必要がある。当初の計画では3年次末までにこの分析を実施することとしていたが、目標を再設定し、4年次半ばを終了の目標とする。 【b. サーベイ調査】については、これまで実施してきた経験から、進め方を変更するほうが目的にいっそう適うと考えられる。すなわち、いくつか特定の分野を選び、その分野の歴史について調べるというのが当初の計画であったが、むしろ分野を問わず、研究者が自分の分野の歴史を書いたり語ったりしているものを見つけてその著者にアプローチするほうが効率的である。同様に、シンポジウムなどに足を運んで経歴の長い研究者にその場で接触し、歴史的な経緯について尋ねることも有効であった。またこのようなアプローチによって、現役から退いている研究者の貴重な証言を引き出したり、歴史的価値のある未公刊資料を収集したりということも場合によっては可能になることが分かった。そのため、次年度以降はこのような手法で進めていくこととする。 ワークショップや研究会については、過去2回の内容を踏まえ、より具体的な問題設定のもとで行う必要がある。たとえば、これまでの調査研究の過程で浮かび上がってきた論点である可視化の問題や、シミュレーションと実験・観測との関連性などに着目して、理工学諸分野におけるシミュレーション文化の相違を検討していく必要があると思われる。 以上のような方針を採ることで、本研究の最大の目的としている「コンピュータ・シミュレーションの科学技術史という研究領域の構築」を推進していく。
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Causes of Carryover |
物品費の実際の合計金額が予算金額と正確には一致しなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越額がごく少額であるため、当初計画から特段の変更をすることなく使用する。
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