2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26750125
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
加藤 勝美 福岡大学, 工学部, 助教 (50470042)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ニトロセルロース / 化学災害 / 熱分析 / 自然発火 / 自然分解 / 自己反応性物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
ニトロセルロース(NC)は,室温でも自然分解する不安定な化学物質であり,貯蔵中の爆発事故が多発している。従来,NCの自然分解は,コンタミした硝酸や硫酸による自触媒反応により促進されると考えられている。本研究では,酸添加NCの熱安定性に及ぼす酸の種類,貯蔵容器容量および酸添加量の影響を評価することを目的とした。平成26年度は,酸添加NCの昇温加熱下(0.2-5K/min)における発熱挙動を示差走査熱量計により観察し,スクリーニング的に熱安定性を評価した。 DSC測定の結果,硝酸/NCおよび硫酸/NCでは,NC単独と比較して発熱ピーク温度が低下し,酸の添加によりNCが不安定化することが確認された。また,実験で得られた熱分析データに基づき反応解析を行ったところ,酸の種類により反応機構が変化する可能性が示唆され,従来の反応機構(酸による自触媒作用)では説明できない新しい知見が得られた。 また,容量の異なる試料容器(15-100μL)を用いて同様の測定を実施した結果,硝酸/NCおよび硫酸/NCの場合では,容器容量により熱安定性が変化することが分かった。例えば,硝酸/NCでは,容器容量が大きくなるにつれて安定化する(発熱ピーク温度が上昇する)傾向が見られ,反対に硫酸/NCでは,容器容量が大きくなるにつれて不安定化する傾向が見られた。硝酸/NCの場合,揮発硝酸あるいは硝酸由来のNOxとNCとの反応が支配的であり,容器容量が大きくなると気相の酸濃度が低下し見かけ上安定化したものと考えられる。一方で,硫酸は蒸気圧がないために,添加した硫酸水溶液中の水のみが蒸発し(硫酸が濃縮され),容器容量が大きくなるに従い,不安定化した可能性がある。しかしながら,本研究で観察された容器容量による熱安定性の差異は僅かであり,今後,より高感度な熱量計を用いて詳細な検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,酸添加NCの熱安定性に及ぼす酸の種類,貯蔵容器容量および酸添加量の影響を評価することを目的とした。上記のように,酸の種類および容器容量の影響については,DSCによりスクリーニング的に評価できた。一方,添加量の影響に関してはDSCの特性上,試料量が小さく添加量の詳細な制御が困難であった。このため,今後,より大きい試料スケールで実験可能な高感度熱量計による検討を実施する必要がある。平成26年度の研究は,熱安定性のスクリーニング評価(高感度熱量計による実験の条件の決定)を主たる目標としており,酸添加NCの速度パラメタの概略値は把握できているのため,以降の研究の大勢に影響はないと考えている。このため,自己評価として「(2) 概ね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
・高感度熱量計C80による等温測定:高感度熱量計C80は,100mgオーダーの試料の発熱挙動を観察する熱分析装置である。このため,スケールアップによる効果を検討でき,また,実際の貯蔵条件に近い等温下での発熱挙動を観察できる。平成27年度は,当該装置を用いて,等温下における硝酸/NCおよび硫酸/の発熱挙動に及ぼす容器容量および酸添加量の影響を観察する。測定温度は,平成26年度の実験結果に基づき,硝酸/NCでは,100℃前後,硫酸/NCでは,70℃前後とする。 ・超高感度熱量計TAMによる等温測定:超高感度熱量計TAMは,C80よりも更に感度が高い熱量計である。このため,室温近傍における熱挙動を追跡することができる。平成27年度は,上記C80測定と並行して,同装置を用いて室温近傍における硝酸/NCおよび硫酸/NCの発熱挙動を観察する。
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Causes of Carryover |
熱分析装置の価格が割引されたため差額(400円)が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ガラス器具等の消耗品に使用する。
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