2016 Fiscal Year Research-status Report
心筋症の分子機構解明に向けた変異トロポニン分子内の局所ダイナミクス計測
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26750367
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
松尾 龍人 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 東海量子ビーム応用研究センター, 主任研究員(定常) (60623907)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トロポニン / 中性子散乱 / 心筋症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,心筋トロポニン分子(Tn)内に生じる家族性肥大型心筋症の成因の1つである変異によって,Tn分子のピコ秒領域の構造揺らぎがどのような変化を示すかを明らかにし,疾患発症の分子機構解明に新たな知見を与えようとするものである.Tn分子は3つのサブユニット(TnC, TnI, TnT)からなり,TnCのCaイオン結合・解離によって心筋収縮を調節している.TnCへのCa結合シグナルはTnI及びTnT,さらに他のタンパク質(トロポミオシン・F-アクチン)へと伝達されることで正常な収縮調節機能が実現される.しかし,Tn分子内に生じる様々な点変異が,この収縮調節機能に異常をもたらし,家族性心筋症を引き起こすことが知られている.この分子機構を解明するためには,変異によるTn分子の構造や揺らぎの異常を捉えることが必須であるが,本研究では特に,中性子準弾性散乱を用いて構造変化の駆動力となるピコ秒領域の構造揺らぎ(ダイナミクス)に焦点を当てている.そして,TnTサブユニットに生じるK247R変異に着目し,この変異によってTn分子のピコ秒ダイナミクスがどのような異常を示すかを明らかにする. 中性子散乱実験施設のトラブルに伴う長期停止により,当初の研究計画に遅れが出ている.しかし,今年度はビームタイムを確保することができ実験を行うことができた.ヒト心筋由来Tn分子の各サブユニット(TnTは野生型とK247R変異型の2種類)を大腸菌発現系を用いて発現・精製し,野生型及び変異型TnTを含むTn分子を再構成した.Caイオン有無の両条件の重水中溶液試料を調整し,中性子準弾性散乱実験を行った.得られた散乱スペクトルの詳細な解析は現在進行中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度行った中性子散乱実験では,目的とする全ての実験を実施することはできなかったため,区分は「やや遅れている.」と判断した.そのため,補助事業期間の延長申請を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
再構成した野生型及びK247R変異型ヒト心筋Tn分子の中性子準弾性散乱実験データの詳細な解析を行い,変異が分子ダイナミクスに及ぼす影響を明らかにする.解析では,分子ダイナミクスのピコ秒,オングストローム領域の時空間情報を得ることができる.これらの情報に関するパラメータをスペクトルから抽出し,野生型と変異型ダイナミクス間の定量的な比較を行う.さらに,Tn分子のサブユニットを重水素化した試料を用いて,分子内の特定のサブユニットのみに由来するダイナミクスの変異による影響を調べる予定である.
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Causes of Carryover |
当初の予定よりも,蛋白質発現及び精製に用いる消耗品の使用量が少なかったため.また,実験の遅れに伴い,今年度購入予定であったデータ解析PCを次年度購入予定にしたため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
蛋白質精製用消耗品(重水,精製用試薬等),及びデータ解析用PCと周辺ソフトウェアの購入に充当する.
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Research Products
(4 results)