2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26750369
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上野 匡 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (60462660)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アクチン / 蛍光プローブ / 生細胞イメージング / 有機小分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
アクチンは細胞骨格の一種であり,様々な外的な刺激や発生のコンテクストに応答して,ネットワークが速やかに再編成され,これにより細胞極性形成や神経突起の伸長,細胞運動などの細胞のダイナミクスが支えられている.本研究課題では,運動や細胞内物質輸送等のさまざまな現象で多種多様な機能を果たすアクチンの動的挙動を可視化可能な合成小分子の蛍光プローブを開発することを目的に,独自の発見に基づきプローブの開発を行っている. 申請者は,本研究課題とは別の目的の蛍光プローブの開発を行う過程で得られた蛍光色素がアクチン繊維を染めることを偶発的に発見しており,これが本研究課題の端緒となった.従来,アクチン繊維に高い親和性を有する化合物は,複雑な構造を有する非天然環状ペプチドや大員環ラクトンが報告されるのみであったが,申請者らの発見した分子はロドール類に属する非常に単純な蛍光分子でありながら,アクチンへの高い結合性を呈していた.本研究課題1年目においては,偶発的に発見されたアクチン結合性の蛍光色素の構造類縁体の設計・合成を行い,構造と結合性における相関の検討を行った.これにより,現在得られている蛍光色素は,ロドールを母核とする分子全体がアクチン繊維に認識されているのではなく,特定の部分構造を有していれば分子量300程度の比較的小さな化合物もアクチン繊維への親和性を呈することが明かとなった.このような小分子はこれまでに例がなく,非常に興味深い発見である.2年目においてはさらに類縁体の系統的な合成をすすめることで構造活性相関の知見深め,またアクチン繊維の伸展速度や結合様式に関する精査を行った.これにより開発している小分子群は,単量体アクチンと繊維状アクチンを完全に分けて認識しており,用いる濃度によっては,アクチン繊維の重合・脱重合を阻害しないことが示唆された.現在,生細胞イメージング系の応用を進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題申請時においては,アクチン繊維を可視化可能な蛍光プローブの開発を行うことを目的とし,研究を遂行しており,申請時の27年度以降の計画としては,系統的に合成したロドール類の類縁体を in vitro や細胞系へと応用することで,構造活性相関を明らかにすることを計画していた.そこで27年度中は,前年度に合成を行ったロドール類の類縁体のアクチン繊維への結合性の精査をすすめた. In vitro 系での精査をすすめた結果,開発した分子は,単量体アクチンとは結合せず,繊維状アクチンのみと高選択的に結合していることが明らかとなった.複雑な構造を有するファロイジンなどのアクチン結合性天然物と比べると,相互作用可能な官能基が少ない単純な蛍光色素が,このような高選択的な認識をしていることは驚くべき結果であった.また in vitro での精査を通じ,類縁体のアクチンに対する結合能を定量的に評価することを達成した. 開発した分子群を生細胞への応用したところ,in vitro である程度高い親和性が得られている化合物においても,生細胞においてはアクチン繊維を染色しない化合物もいくつか存在することがあきらかとなった.種々の検討から,これは細胞内におけるプローブの動態がおもな原因であり,例えば開発したローダミン系の色素は,アクチンへの親和性を有しながらも,細胞内ではリソソームやミトコンドリア内に蓄積してしまうためにアクチンの染色が十分に起こらないことが明らかとなった.また,化合物の染色像の比較を行ったところ,in vitro で得られているアクチン繊維への解離定数の差以上に,アクチン繊維の染色像のコントラストが高くなる興味深い性質の化合物も見出された.現在,生細胞におけるプローブの動作原理の解明や応用における条件の最適化などを進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は,プローブの系統的な合成 In vitro における活性の精査や,生細胞,固定細胞を用いた系において体系的なデータをスムースに得られる実験系の構築も進んでおり,ここまで順調に進行している.本研究課題の最大の目標は,生細胞におけるアクチン再構成系の可視化に応用可能なプローブの開発にあるので,合成した化合物がアクチン繊維に作用した場合に,繊維の伸張や崩壊に対してどのような影響があるかを定量的に見積もる実験を現在すすめている.これまで In vitro においてはアクチン繊維伸張反応が高濃度のプローブ曝露によって弱く阻害されるという知見が得られている.また,プローブは単量体アクチンへの結合がみられなかったので,これらの結果を合わせると,プローブがアクチン繊維のプラス端に結合することで伸展を阻害していると考えられる.プローブとアクチンの解離定数と,プローブが伸展を阻害する濃度には解離があるため,繊維の軸索に結合する解離定数と,プラス端への解離定数が異なっていることが考えられ,この点に関して今後,構造活性相関を含め,解明を進めていく予定である. 生細胞内におけるアクチン繊維の再構成系では,細胞に適用するプローブの濃度を変えることで,細胞の運動性が変化することが分かっている.高い濃度では in vitro での試験結果と同じく細胞の運動性を落とすことから,どの程度の濃度で用いることで,生細胞イメージングが達成可能か,今後,精査していく.また,運動性を評価するにあたり現在はウンドヒーリングアッセイを用いているが,得られる定量値にばらつきが大きく,正確な比較ができていない.今後は,単一細胞のモーショントラッキングなども取り入れ,より定量性の高いデータを取得していきたいと考えている.
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Causes of Carryover |
当初の計画では,蛍光色素のアクチン繊維結合を精査すべく,ファロイジン染色と開発する化合物の共染色における蛍光の像面のズレが最大限に補正されていることが重要であると考え,軸上色収差を含めた諸収差が高度に補正されている60倍油浸 対物レンズ ・UPlanSApo 60xO (Olympus 社製,1 x 250千円相当)を初年度に購入する計画であった.実際,蛍光顕微鏡上で実験を行ったところ,ファロイジン染色に用いる色素の波長を限定すれば,軸上色収差は大きな問題としてはあらわれないことが判明し,当該レンズの購入を見送った結果,繰越金が発生した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度は,in vitro における生化学実験による精査や生細胞イメージングによる精査を順次行っていく予定である.このため,27年度からの繰越金を,これらの実験に必要なプラスチック消耗品や実験試薬・サンプルの購入費に充てる予定である.また,生細胞の運動性の評価を行うにあたり,アッセイキットの購入費にも使用する予定である.
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