2014 Fiscal Year Research-status Report
徳認識論と徳倫理学:「徳(virtue)」概念のヒューム的再構成
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26770005
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 一弘 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (00727795)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 徳認識論 / 徳倫理学 / ヒューム |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の(おもに英米の分析的伝統に属する)認識論および倫理学に見られる興味深い特徴のひとつとして、「徳(virtue)」という古典的概念への再注目、すなわち徳認識論と徳倫理学の興隆が挙げられる。本研究の目的は、18世紀のデイヴィッド・ヒュームの哲学に見られる徳認識論的・徳倫理的発想を詳細に検討することを通して、人間の認識と道徳の両分野に跨がる概念としての「徳」概念を現代の議論にも資するかたちで再構築することである。二年間のプロジェクトの一年目となる本年度は、本研究の基幹部分となるヒュームのテクスト解釈を徹底して行ない、その成果を4件の学会発表と1件の書評論文としてまとめた。以下に具体的な研究内容について述べる。 主著『人間本性論』の第一巻すなわち知性論の末尾においてヒュームは、徹底的な懐疑論の破壊的帰結を少なくとも理屈の上では受け入れているように思われる。しかしもしそうであるなら、その後に続く第二巻(情念論)・第三巻(道徳論)で行なわれる学問的探究とそこでのヒューム自身の見解は、いったいいかなる意味で説得力をもちうるといえるのだろうか。本研究では、ヒュームの懐疑論は(それが紛うかたなき懐疑論でありながら)その後の探求を不可能にするようなものではないとするケヴィン・ミーカーの解釈を踏襲しつつ、ヒュームが懐疑論の後にもなお意味をなすと考えていた「判断の良し悪しの区別」の内実を探った。そして、ヒュームが道徳論で考察する、判断する個人の性格に対する「有徳/悪徳である(virtuous/vicious)」という区別こそがそのような「良し悪し」の基礎となり、それは道徳的判断だけでなく事実的判断についても当てはまるという解釈を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では二カ年のうち一年目は認識の分野、そして二年目は道徳の分野に重点を置いて研究を進める予定であったが、在外研究を二年目にまとめておこなうことに変更したため、国内でも問題なく遂行可能なヒュームのテクスト解釈作業を本年度に両分野まとめて行なうことにした。その結果、課題全体の解決方針が明確になり、次年度に行なうこととなった「ヒューム的観点から現代の徳認識論・徳倫理学にとっても示唆に富む「徳」概念を再構築する」という課題に対しても良い見通しが得られた。それゆえ全体として本研究は順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の変更としては、本年度予定していた在外研究を(相手方とのスケジュール調整の結果)来年度に行なうことにした。これに伴い来年度は、本年度の研究結果を踏まえて、現代の徳認識論・徳倫理学の議論状況にも生産的な貢献をなしうるような「徳」概念の再構築という作業に取り組む。
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Causes of Carryover |
当初本年度に行なおうと考えていた在外研究を、先方とのスケジュール調整の結果、来年度に行なう方がよいと判断したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
増額分はそのまま、(今年度分の延期によって)来年度に新たに行うことになった在外研究のために使用する。それ以外のもともと予定されていた額は、おもに書籍を中心とした物品購入、国内・国外出張、もともと来年度に行う予定であった在外研究に使用する。
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