2015 Fiscal Year Research-status Report
技術者の責任と環境配慮義務に関する研究:工学倫理と環境倫理学の両面的アプローチ
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26770018
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Research Institution | Kurume National College of Technology |
Principal Investigator |
藤木 篤 久留米工業高等専門学校, 一般科目(文科系), 助教 (80609248)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 倫理綱領 / 工学系学協会 / 教科書 / 工学倫理 / 環境倫理学 / 専門職倫理 / 保全医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は「初年度の調査結果の擦り合わせとブラッシュアップ」との位置づけを与え、主に「工学倫理教育の現場で捉えられている[環境]概念の実態把握」と「工学倫理における技術者の配慮対象としての[環境]概念と、環境倫理学における[環境]概念との比較」の二点について、研究を進展させた。 一点目に関しては、工学倫理の教科書の出版状況、国内工学系学協会が設定している倫理綱領の改定履歴等のサーベイを行った。昨年度の調査から、目立った変化は見られなかった。すなわち、技術者教育の場では、環境への配慮を義務づけ、尊重するよう促しているが、より実践的な提言や具体的行動計画の策定には未だ至っていない。 二点目に関しては、主に英米圏の環境倫理学の文献を中心に調査を進めた。環境倫理学の隣接分野である保全医学conservation medicineに関する文献をサーベイした結果、「環境」概念を拡張する動きがあることが明らかになった。レオポルドの「土地倫理」以降、生態系保全の重要性を訴える議論は数多く行われてきたが、そうした議論の多くでは寄生虫や病原菌といった存在は無視されてきた。一方で、公衆衛生学や獣医学、保全生物学など既存領域の統合によって「環境全体の健全さ」の実現を目指す保全医学において、これらの有害生物も当然配慮すべき対象となる。これら一連の問題意識は、本研究課題が提起する「技術者はどこまで環境に配慮すればよいのか」という問いに対して、有益な視点をもたらす可能性がある。 以上の調査結果をもとに、次年度は「技術者の環境配慮義務」に関する研究のとりまとめを行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文献の収集については、研究計画に沿って順調に進められている。一方で、収集資料の読解・分析に当初想定したよりも時間を費やしているため、進捗状況全体としてはやや遅れている。 また平成28年2月に米国で開催されたAssociation for Practical and Professional Ethics (APPE) の年次大会へ参加し、国外の状況についてある程度調査を進めることができたものの、別に参加を予定していたSociety for Philosophy and Technology (SPT) の研究大会への出席が叶わなかったため、海外研究者との意見交換は十分に行われているとは言いがたい状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
当面は、研究課題を計画通り遂行できるよう、収集資料の読解・分析に割くエフォートの割合を向上させる。並行して、研究代表者が委員を務める日本工学教育協会技術者倫理調査研究委員会の活動を通じて、引き続き国内の工学倫理教育の実情を調査する。また環境倫理学の文献調査に加え、保全医学における有害生物保全の議論についてもサーベイを行うことで、より妥当性の高い「技術者の配慮対象としての環境」の概念枠組みを設定する。平成28年度は、最終年度であることを加味し、現在までのサーベイの結果を論文としてまとめ、然るべき学術誌へ順次投稿していく予定である。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた研究用資料 (洋書)が、思いのほか高額であることが判明し、平成27年度予算残額内での購入が難しいと判断したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究用資料の購入に充てるつもりである。
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Research Products
(4 results)