2014 Fiscal Year Research-status Report
般若経の編纂過程に関する研究―『八千頌般若経』を中心に―
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26770023
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
庄司 史生 立正大学, 仏教学部, 助教 (00632613)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 般若経 / 八千頌般若 / 二万五千頌般若 / カンギュル / テンパンマ / チベット語 / ジャガッダラニヴァーシン / 後期インド仏教 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の目的:本研究は、現存『八千頌般若』諸本の編纂過程を明らかにすることを目的とする。特に、現存する二系統のチベット語訳『八千頌般若』の梵蔵対照テキストの作成と、注釈文献の読解により、『八千頌般若』の編纂過程を明らかにし、かつ結果として得られる二系統の訳例に基づき「梵蔵仏典語彙集(仮)」の基礎データの蓄積を目指すものである。 具体的内容:平成26年度は、本研究課題に関連する問題として、チベットに伝えられる三種の『八千頌般若』の伝承を紹介し、それらの現存状況を調査した上で、本研究課題で取り上げている二系統のチベット語訳『八千頌般若』とあわせて考察した。その成果は『印度学仏教学研究』63(1)に公表した。また、テンパンマ系統のカンギュルのうち、いわゆるロンドン写本のテキストデータ入力を進めている。 意義:本研究の進捗に従い、現存するチベット語訳『八千頌般若』の系統分類がより鮮明になり、その発展段階が明らかになりつつある。このことは、〈般若経〉のみならず、大乗経典の編纂過程解明のためのひとつモデルケースとなる点に意義があるといえる。 重要性:本研究では、現存するチベット語訳『八千頌般若』の編纂過程解明のために、同経典に対するジャガッダラニヴァーシンによる注釈書『仏母の伝承に従った解説』(12世紀頃)を随時参照している。同著は後期インド、そしてチベット仏教において、強い影響を与えている『現観荘厳論』を知りながらもそれと異なった立場から注釈している点に特徴がある。従って、同著を参照しながら同経典を読解することにより、後期インド、そしてチベット仏教における〈般若経〉を中心とした大乗経典の受容と展開を明らかにするための情報を提供できる点に重要性を認める事ができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成26年度における研究では、本研究で主として扱う『八千頌般若』について、チベットにおけるその系統分類に関する伝承について研究を行なった。このことは交付申請時には想定していなかったことであるが、本研究で得られる成果とあわせて考察されるべき重要課題であるとの認識を得た。つまり、本研究課題について、チベットにおける伝承を一つの確実な補助線として使用することが可能となり、本研究成果の根拠づけとなるソースを一つ加えることができた。 また、本研究では、『八千頌般若』の編纂過程を明らかにするために、二系統のチベット語とサンスクリット本との計3本対照テキスト作成を行なってきたが、同経典の全体的分量の多さから、テキスト全体を作成するには、予想していた時間量では不足することを経験的に知り得た。 以上のような平成26年度終了時の現状をふまえ、平成27年度では、本研究全体の目的は変更せずに、成果物として作成する報告書の規模縮小を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の成果として、二系統のチベット語訳『八千頌般若』とサンスクリット本との計3本対照テキストを作成する予定であったが、【現在までの達成度】にて記したように、テキスト全体の分量からして、本年度での完成は困難な状況である。そこで、本研究課題の目的である〈般若経〉、特に『八千頌』の編纂過程を明示するためのテキストを以下のように作成し公表する。 つまり、『八千頌』は全32章よりなるが、第1章のみは3本校訂テキストとして、各本の異同を明示するが、第2章から第32章までは、古系統のチベット語訳『八千頌』の翻刻テキスト(テンパンマ系統のロンドン写本を使用)のみを提示する。新系統に属するデルゲ版のチベット語訳『八千頌』のテキストデータは既にACIPといったインターネット上でダウンロードが可能であり、サンスクリットテキストデータもまたGRETILなどで入手が可能である。このことから、本研究では経典の第2章以降は古系統のロンドン写本の翻刻テキストのみを提示し、そこに新系統のチベット語訳、そしてサンスクリット本のロケーションを付与することとする。規模は縮小するものの、それによって本研究の目的である『八千頌』の編纂過程を明らかにするための十分な根拠を提示し得ると考える。他本のロケーション明示により、他の研究者も諸本確認を行うことが可能となる。 さらに上記の『八千頌』のテキスト作成とともに、ジャガッダラニヴァーシン(12世紀頃)による注釈書『仏母の伝承に従った解説』の釈文を参照することで、後期インド仏教における〈般若経〉を中心とする大乗経典の受容と展開を知る手がかりを得ることができる。 なお「梵蔵仏典語彙集(仮)」の作成については、基礎データの蓄積のみとし、現在他の研究者によって進められている他経典の語彙例とあわせて、より総合的な語彙集作成のためのデータとして保存し、早急な公表は控える。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由として次の2点がある。 第1点目の理由は、人件費に関するものである。研究代表者による研究協力者への作業依頼の下準備に時間を要し、結果的に平成26年度は代表者が作業を一人で進めることとなったことによる。現時点では研究協力者への作業準備が整っており、本年度は人件費を使用し、研究協力者へと作業を依頼する予定である。 第2点目の理由は、旅費に関するものである。現職の校務状況により、当初予定していた大谷大学への資料調査に行くことができなかったこと、また同様に予定していた花巻市博物館へは資料調査を行ったが、時間の関係上、日帰りとなったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は、2年間の研究成果として、報告書の刊行(500-600頁の予定)を予定している。同報告書の刊行に向けて、校正等の作業を研究協力者に依頼予定である。そのために、本年度は印刷費、また人件費の支出を予定している。 また、昨年度調査した東京大学、花巻市博物館所蔵文献のデジタル化(業者へ委託)を予定している。 その他、学会発表のための旅費、そして図書資料購入のための物品費の使用を予定している。なお、10万円を超える機器の購入は予定していない。
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