2015 Fiscal Year Research-status Report
明治期日本における「共和主義」概念の解読―特にその英米思想史的由来をめぐって
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26770037
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
柴田 真希都 国際基督教大学, キリスト教と文化研究所, 研究員 (70722916)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 共和主義 / 近代日本 / 英米思想 / 内村鑑三 / 中江兆民 / 木下尚江 / ジョン・ロック / 福沢諭吉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も昨年度に引き続き、所記の研究課題に対して二つの方法を設定して研究を進めた。一つは近代日本の具体的な共和主義論の発掘であり、もう一つは西欧社会思想史における近代英米文脈に展開された共和主義の理論的探究である。 前者に関しては中江兆民、内村鑑三、木下尚江に着目し、彼らにおける「共和主義」論と、その応用とみられる思想言論活動の展開を跡付けることを目的とした。その際、中心としては内村鑑三の共和主義論を改めて整理し、彼の明治期の社会・政治思想の要諦を、その独特の共和主義的志向から再解釈することを試みた。その成果は講演として、またその関連論文として公表された。今年度は中江、木下らに加え、福沢諭吉や新島襄といった明治初期から活動する知識人にも共和主義的要素を見出す作業を行った。 一方、後者に関しては、英語圏で近年発表された共和主義関連の文献を読み進めた。Philip PettitのOn the people's terms : a republican theory and model of democracy(2012)、Michael P. WinshipのGodly republicanism : puritans, pilgrims, and a city on a hill(2012)などである。さらに原典講読の重要性を鑑み、研究会を開いて引き続きジョン・ロックの著作に取り組んだ。これはイギリス17世紀に提出されたcommonwealth(共和国)の概念、政府の保護義務の対象となるpropertyの概念、あるいは革命権の問題などを考慮し、それらを近代日本の共和主義を眺める際の参照枠として適用することを念頭に置いた基礎作業である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度も近代日本の資料としては内村鑑三とそのコミュニティを中心とした共和主義概念の整理と分析、その成果の公表に終わり、その周囲に配置したいと考えている中江兆民や木下尚江に関する研究成果をまとめるまでには至らなかった。その理由は内村鑑三を対象とした大部の論稿の出版が決定し、その原稿の改稿・修正作業に時間と労力を費やしたことが挙げられる。もう一点は、昨年度から引き続き継続している西欧の共和主義の伝統を理解するための、文献の収集と読解を優先的に進めている、という事情が挙げられる。J.G.A.ポーコックのThe Machiavellian Moment(1975)のみならず、J・メイヤーらによる論文集(Republicanism and Political Theory, 2008)、P・N・ペティットの各論考(例えばRepublicanism: A Theory of Freedom and Government, 1997)などを読み解き、その各論旨を照らし合わせて、共和主義と市民的徳という主題が扱う内実を要素分解的かつ統合的に扱うのは容易なことではなく、現在もそうした著作の読解は進められている。 このように、現状では具体的な事例研究の進展はやや遅れているといわざるを得ないが、一方で当初の計画では後回しの予定であった西洋政治思想史上の共和主義をめぐる理論史的研究を前倒しにして進めていることにより、研究の進展状況としてはバランスのとれたものとなり、次年度以降の資料探索やテキスト選定といった基礎的作業に対しては当初より見通しが立ちやすくなったと考えられる。このことは4年間で一区切りの研究の前半の取り組みとしては決して手薄であったというわけではなく、むしろ理論研究と実証研究の並行的進展がもたらす着実な研究の進展に貢献するところがあったのではないかと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
中江、内村、木下らの共和主義をめぐる議論を中心に、資料探索の範囲を拡大し、明治中後期のオピニオン雑誌、大衆雑誌として普及力をもった『国民之友』や『女学雑誌』、『太陽』『労働世界』などにおいて「共和主義」周辺の語やそれに類する議論がないかどうかを調査していく。その際、当該雑誌が欧米由来の特定の制度や思想をどう価値づけようとする基本姿勢をもっていたのか、という点に注目する。都市の知識人一般だけでなく、地方に住む次代を担う青年層にも大きな影響をもたらした上記のような雑誌が、法律としては帝国憲法と不敬罪、慣習としては教育勅語や軍人勅諭などによって規定されていた明治日本の国是に立ち向かうような言論を生んだ時、そこに何らか「共和主義」的なエートス形成への意志も提出されていたかどうかが問題とされよう。政治的な意味での「共和主義」なる語を巧妙に避けたとしても、それに類する思索が新しい共同体像、国家像の提出に際し有効活用されている場合もあると推測される。 こうした実証研究と並行して、近代日本における共和主義的な思想の涵養に大きな影響を与えたと推測される、17世紀クロムウェルの革命からアメリカ独立革命を経てリンカーンへと至るような、アングロ・サクソン共和主義の系譜における思想的諸要素の把握に一層努める。それにより、英米に流れる共和主義のエートスと、中江・内村・木下やその周辺の共和主義的な議論が、いかに共通し、また相違するのかを比較思想研究によって明らかにすることが目指される。 その際、特に英米ピューリタニズムが担った共和主義的なエートスとは何かが問題となるだろう。その事に関しては、国内に存在する資料や研究書を読解しながらも、内村らと関わりの深いマサチューセッツ州ボストンやアマースト、コンコードやニューヨークなどの各・公共機関における資料調査によってその把握に努めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は国内における文献調査や研究会参加を主とした活動としており、図書購入費や出張費以外に大きな金額を使用する場面がなかったこと、また次年度以降(第三年度と第四年度)にアメリカ合衆国を中心に海外における資料調査を予定しており、そのための渡航費や出張費を十分準備しておく必要があると考えたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降(第三年度と第四年度)にアメリカ合衆国やイギリスにおける資料調査を予定しており、そのための海外渡航費や出張費に用いることを予定している。
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Research Products
(2 results)