2015 Fiscal Year Research-status Report
「われ感触す、ゆえにわれ在り」の系譜―ヘルダーからメルロ=ポンティまで―
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26770038
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
杉山 卓史 筑波大学, 芸術系, 助教 (90644972)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | リーグル / ヘルダー / ジーゲル / 触覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書に記載した研究計画に基づき、本年度はリーグルの美術史学における触覚概念の位置づけとその起源の解明に従事した。 リーグルは『末期ローマの美術工芸』(1901年)において、奥行き変化を示す輪郭とりわけ影のような三次元的要素のない「触覚的」事物把握=「近接視」を特徴とする古代エジプト美術という第一段階から、影が生まれるが部分相互の触覚的連関を保持する「触覚的‐視覚的」事物把握=「通常視」のギリシア古典美術という第二段階を経て、個々の部分が深い影によって触覚的連関を断たれる「視覚的」事物把握=「遠隔視」の末期ローマ帝政期美術という第三段階に至る、という古代美術の発展図式(=「芸術意思」)を提示した。この図式とりわけその独自の「触覚的(haptisch)」概念は、単に美術史学の方法論的基礎づけにとどまらず、20世紀の思想にも大きな影響を及ぼした。 この概念は、前年度にの研究成果であるヘルダーの触覚概念との類似性を想起させる。本年度の研究は、両者の間を文献学的・実証的に架橋することを試みた。具体的には、リーグルが〈触覚的‐視覚的〉の対概念を導入するに際して、新カント派の哲学者ジーゲルの『空間表象の発展』(1899年)に唯一の先行研究として言及していること、このジーゲルが後に『哲学者としてのヘルダー』(1907年)という書を著していることに、注目した。ただし、両著に共通する触覚論を、ジーゲルはヘルダーの触覚論のマニフェストたる『彫塑』(1778年)にではなく『メタクリティーク』における反カント的空間論に依拠して展開していることが、本年度の研究において新たに明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画において予定していた、リーグルの触覚概念の位置づけとその起源について、一定程度解明しえたため。当初は、コースマイヤーをはじめとする現代分析美学における触覚論の検討や、リーグルの美術史学と文化財保護論とを触覚概念によってつなぐ試みをも予定しており、これらにまで手をつけられなかったことは遺憾であったが、「系譜化」を本旨とする本研究の中核部分については予想以上の新知見をもたらすことができたため、総合して「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り、メルロ=ポンティの身体哲学の成立におけるヘルダーの影響、ならびに、そこで果たしたヴァールブルク学派の役割について研究を進め、「われ感触す、ゆえにわれ在り」の思想の系譜化の(一応の)完結を目指す。
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Causes of Carryover |
研究の全体計画に鑑み、当初本年度予定していた米国出張を延期し逆に来年度予定していた欧州出張を本年度に前倒したが、校務で欧州に出張する機会があり、これと日程を接続させることによって日欧間の旅費を削減することができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究資料の購入と外国語論文の校閲料に充当する予定である。
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