2014 Fiscal Year Research-status Report
中世スペインにおけるキリスト教とイスラーム間の異文化交渉:トレドのムデハル美術
Project/Area Number |
26770049
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
久米 順子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60570645)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ムデハル / スペイン / 中世美術 / キリスト教美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の1年目にあたる平成26年(2014年)は、研究計画通り、ムデハル研究の文献収集を集中的に行った。また、非欧米圏における西欧中世歴史学・美術史学の研究者との将来的なネットワーク構築の足掛かりとして、2014年6月の西洋中世学会全国大会において、中南米における西欧中世歴史学研究の歴史と現状をポスター発表のかたちで日本人研究者たちに紹介した。 研究計画に記したカスティーリャ王アルフォンソ8世(在位1158-1214年)の没後800年シンポジウムなどには日程等の都合で参加できなかったものの、9月にスペイン出張を行い、テルエル市のムデハル研究センター主催の第13回ムデハル学国際シンポジウムに参加することができた。ムデハル学の現在の研究動向や研究者たちを知るのに非常に有用であった。その前後にテルエル市近辺の主要なムデハル建築の調査を行ったほか、ムデハル研究の盛んなアラゴン州都サラゴサの図書館、中世美術を中心とした蔵書で知られるバルセロナ市のカタルーニャ美術館図書館、マドリード市のスペイン高等学術研究院人文社会科学研究センター図書館、マドリード市立図書館において、ムデハル美術・建築に関する先行研究を渉猟した。 また、2015年3月にはポルトガルに出張し、ポルトガルのムデハル美術・建築の実地調査を行った。さらに国際研究集会 “Medieval Manuscripts in Motion”に参加し、本研究の中心地域として設定したスペインのトレドで制作された写本挿絵に関して口頭発表を行った。こうした国際研究集会への参加は、各地の専門家と出会い、あるいは再会を果たして、情報交換をしたり個人的な所感やコメントを直接やりとりできる利点があり、研究を続ける上で非常に重要な契機となっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ムデハルに関する先行研究の収集に関しては、スペイン・ポルトガル出張の際に主要な図書館を訪問することができ、また科研費のおかげで必要な資料の購入ができているため、おおむね順調に進展している。とはいえ、古いが重要な文献や、小さな出版社や財団等特殊な出版物は入手が難しいことも多い。 本課題に取り組む前にある程度予想していたことではあるが、ムデハル研究の特にスペインにおける研究の蓄積はかなり進んでおり、それにつれて地域間の差異が注目されてきている。本課題で扱う地域であるトレドに関する文献を中心的に収集するように努めているが、それ以外の地域のムデハル研究およびムデハル美術研究も研究方法や先行研究批判の点で学ぶべき点は多い。しかし何もかもを集めて読み込めるはずもないので、文献渉猟の基準と比重についてよく考えていく必要がありそうである。 本研究課題の前に研究代表者が遂行していた課題「レコンキスタ期イベリア半島のキリスト教写本芸術と異文化交渉に関する基礎的研究」(若手研究(B) 22720041)で取り組み始めたものの、論文のかたちにまとめるには至らなかったテーマであるトレドのイルデフォンソ『聖母マリア童貞論』写本について、本課題でもトレドという制作場所とのつながりから引き続き考察を進め、今年度ようやく国際研究集会で口頭発表を行うことができた。当初の予想以上に時間がかかったが、ここからさらに新しい展開につなげていくことができるのではないかという可能性を感じている。 一方、ムデハル研究に必要なアラビア語の学習は、苦戦している。割り切って、現代の口語としてのアラビア語ではなく、中世イベリア半島で制作された銘文等の読解のみに照準を絞る必要があるかもしれないと感じている。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画通り、2年目となる2015年度は、アルゼンチンにて開催予定の第2回の非欧米圏からの西欧中世研究集会に招待参加予定である。中南米などで中世西欧研究を行っている研究者たちと、それぞれの研究内容を発表し合い、研究方法、成果の発信方法などの討議を行うことが目的である。 アラビア語の習得に関しては、イスラーム美術・建築によく用いられる銘文にある程度のパターンがあることが分かってきたため、それら銘文の読解を中心に学習を続けていく。語学のみならず、書体の歴史的展開や媒体・技法との関係(紙、壁、浮彫、モザイクなど)、象徴的意味などについても先行研究によりながら学ぶ必要がある。ムデハル研究の文献収集も方針を見直しながら継続していく。
|