2016 Fiscal Year Research-status Report
中世スペインにおけるキリスト教とイスラーム間の異文化交渉:トレドのムデハル美術
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26770049
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
久米 順子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60570645)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ムデハル / スペイン美術 / 中世美術 / 異文化干渉 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年3月から2017年3月の1年間、本研究の申請時には予想されなかったことだが、「頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」プロジェクト「境界地域の歴史的経験の視点から構築する新しいヨーロッパ史概念」(2014~2016年度、東京外国語大学、主担当研究者:篠原琢)による若手研究者海外派遣のため、フィレンツェの欧州大学院大学を拠点に研究を行うことになった。そのため、本研究計画の3年目にあたる平成28年度(2016年度)に予定していたトレドのサン・ロマン聖堂およびクリスト・デ・ラ・ルス聖堂の個別研究の予定はこれを変更せざるを得なくなった。 頭脳循環プロジェクトでは、報告者は、ヨーロッパ中世美術史を専門とする立場から画像史料を有効に用いつつ、ヨーロッパ境界地域、とりわけ中世地中海地域における歴史的経験の循環を明らかにするという研究課題を担当した。したがってイベリア半島のムデハル美術研究という本研究の課題と異なり、きわめて幅広い年代と地域を扱う必要が生じたが、そのことがかえって本研究を別の視座から見直すための格好の契機となった。さらに、世界中から多くの研究者が訪れる欧州大学院大学を拠点とすることで、隣接する諸分野の研究者とのネットワークを広げ、異文化交渉という問題全般について考察を深めることができた。 一方、アウトプットの面では、非西欧圏における中世研究の一例として、これまでの交流の中で知り得た中南米の西洋中世学の歴史的形成と現状の諸問題について学会誌『西洋中世研究』にまとめることができた。また、アルゼンチンの西洋中世研究普及誌に日本の西洋中世学についての報告者へのインタビューが掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの文献渉猟においておもにスペイン語によるムデハル美術の先行研究を、そして今年欧州大学院大学にて英語とイタリア語によるムデハル美術ならびにキリスト教とイスラーム間の異文化交渉にかかわる先行研究を集中的に収集することができた。それらを読み込み、現在の視点からムデハル美術の研究史として振り返った成果を口頭発表し、質疑応答でのやり取りなどを反映させて論文にまとめてきている。この過程で、今後の研究に繋がり得る新たな諸問題が浮かび上がってきたことは大きな収穫である。具体的には、異文化の受容、継承、発展という長いプロセスをより多面的に分析する必要性、地中海世界で頻発した異宗教間の文化接触との比較の必要性などである。 一方、今後の課題として、トレドの個別作例の分析があげられる。頭脳循環プロジェクトによる海外派遣のために研究環境が大きく変わったことに起因するとはいえ、最終年度に集中的にこの課題に取り組まなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの中南米・スペイン地域を主とする研究者たちとの交流を通じて、2017年10月に報告者主催というかたちで第3回国際コロキウム「異なる視野から見たヨーロッパ中世:理論と方法論の諸問題」を開催することとなった。これは非欧米圏におけるヨーロッパ中世研究の諸問題を幅広く考えるためにまず2013年にメキシコで、次に2015年にアルゼンチンで行われた国際コロキウムの第3回大会であり、初のアジア開催となる。同時に、本科研の研究テーマに特化した特別セミナー「“ムデハリスモ”と“モサラビスモ”:中世イベリア半島におけるイスラーム世界とキリスト教世界の文化交渉」を開き、コロキウムのために来日する美術史や歴史学などさまざまな分野の専門家に表題に関する講義を行ってもらう。これらの講演や質疑応答、論集の編集・刊行(電子出版予定)を通して報告者によるムデハル研究がさらに深まることが期待できる。これらの準備と並行して、トレドの個別作例の研究に順次取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
上述のとおり、今年度は「頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」プロジェクトによる若手研究者海外派遣のため、一年を通じてフィレンツェの欧州大学院大学を拠点に研究を行うことになった。そのため研究関連書籍等の物品購入および出張計画に大幅な変更が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、最終年度分の助成金と合わせて、上記に詳述した第3回国際コロキウム「異なる視野から見たヨーロッパ中世:理論と方法論の諸問題」および特別セミナー「“ムデハリスモ”と“モサラビスモ”:中世イベリア半島におけるイスラーム世界とキリスト教世界の文化交渉」の開催費用に主として使用する計画である。これらのイベント開催は本研究計画申請時には予期し得なかったものであるが、これまでのコロキウム主催者・参加者から日本の西洋中世学の現在を知ることに対する大きな期待の声が寄せられるなか、次年度使用額が生じたために時宜を得て開催に踏み切ることとなった。参加者に第一線の中世史学・中世美術史研究者を数えるため、これらの開催は、本研究計画が目標とする中世イベリア半島のキリスト教とイスラームの異文化干渉の解明に大きく寄与するものとなる。
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Research Products
(9 results)