2016 Fiscal Year Annual Research Report
Transformation of "Model": the Prayer Portraits of the Dukes of Burgundy and Early Flemish Paintings
Project/Area Number |
26770055
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Research Institution | Osaka Ohtani University |
Principal Investigator |
今井 澄子 大阪大谷大学, 文学部, 准教授 (20636302)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 美術史 / フランドル / ネーデルラント / ブルゴーニュ / 祈祷者 / 肖像 / パトロネージ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、初期フランドル絵画の祈祷者像の「モデル」として、ブルゴーニュ公の祈祷者像が担った役割を、自己称揚と均衡の観点から明らかにすることを目的としている。最終年度は、これまでの調査成果を発表しつつ、1)ブルゴーニュ公の祈祷者像と初期フランドル絵画との比較検討、および、2)ブルゴーニュ公の美術作品の利用とフランドル地域への影響をめぐる考察を行った。 1)については、祈祷者像の通時的な比較を行った。それにより、ブルゴーニュ公フィリップ善良公から後継者シャルル突進公へと至る祈祷者像が、祈祷対象との均衡をはかりながら変容していくという過程が、15世紀後半のハンス・メムリンクの作品などにおいて多様に展開する初期フランドル絵画の祈祷者像の方向性と対応していることを確認した。2)については、《カエサルのタペストリー》(ベルン歴史博物館)の図像と機能を検討し、古代の英雄カエサルをシャルル突進公と重ねる表象が、フランドル地域に留まらず、ヨーロッパ全体に影響を及ぼした可能性があることを指摘した。この研究成果は学会誌『西洋中世研究』に論文として公表した。1)についても部分的に図書・雑誌に公表したが、今後さらに学会発表・学会誌論文として発信していく計画である。 研究期間全体を通しては、(1) フィリップ善良公の祈祷者像では公の権威が強調されるのに対して、シャルル突進公の祈祷者像では均衡の表現も重視されていたこと、(2) 初期フランドル絵画の祈祷者像表現にも、自己称揚から均衡へと至る変容が見られること、(3) とくに15世紀後半の初期フランドル絵画の祈祷者像にブルゴーニュ公の祈祷者像表現が取り入れられていることが明らかになった。以上の成果により、本研究は、中世末期のヨーロッパの支配者が、美術の図像表現と機能に大きな影響を及ぼした一例と位置づけることができる。
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Research Products
(6 results)