2016 Fiscal Year Research-status Report
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26770059
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Research Institution | Kitakyushu Museum of Natural History and Human History |
Principal Investigator |
富岡 優子 北九州市立自然史・歴史博物館, 歴史課, 学芸員 (20508957)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 涅槃図 / 地域性 |
Outline of Annual Research Achievements |
涅槃図の総合的研究という長期的視野に立ち、九州所在の仏涅槃図の調査を行い地域性の解明に挑む2年目にあたる。今年度は特に福岡県内を中心に仏涅槃図の調査を行った。研究実績の概要は主に下記の通り。 1)福岡・開善寺に室町時代(15世紀)の仏涅槃図を発見した。畳秀山開善寺は14世紀に信濃の守護小笠原氏が開創した妙心寺派の寺院である。藩主の小笠原氏が江戸時代初期に小倉に転封されたことにより小倉・馬借町に同名の寺院が開創された(現在は小倉南区湯川に移転)。当該作品はこの小倉・開善寺に伝来したもので、これまで未調査であった。本図は平成28年秋に小倉城庭園の企画展「小笠原家と開善寺」で急遽初公開されたが、この時、本格調査などが未完であり、展示後に再調査を行った。本研究終了時までに調査の成果を論文等で公表する予定である。 2)福岡県内の調査を進める中で、地域に残る中世の仏涅槃図を江戸時代に写した事例、具体的には、福岡・東長寺本、福岡・善導寺の仏涅槃図の江戸時代の写本が発見された。大分でも宇佐・大楽寺本について同じような事例が報告されており、江戸時代の地方絵師の絵画学習などにも示唆を与えるもので、仏涅槃図の図様の伝播と地域性の問題を表すトピックになると考える。次年度以降の新たな研究課題としたい。 3)鹿児島・興善寺旧蔵の清時代の仏涅槃図(福岡市博物館所蔵)の調査を行った。本図は福州を中心に活躍した中国人画家で、琉球画壇に多大な影響を与えた孫億(1638-1712)の作品。長崎・崇福寺所蔵で万暦38年(1610)の作である同じく福州の出身呉彬の仏涅槃図に通じる点があり、当時福建では孫億の描いたような仏涅槃図がプロトタイプとして確立していた可能性があると考えられた。ま中国の仏涅槃図の作例は多くはないが、次年度以降、具体的に検証していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
育児、妊娠など思うように遠方への出張が出来なかったために、九州島内の仏涅槃図のうち今年度は主に福岡県内の調査を主として行った。 当初計画していたのは中世に遡る仏涅槃図の調査および研究であったが、中世に制作された仏涅槃図の写本についても手を広げることによって必然的に近世の涅槃図についての調査を行うこととなった。これによって当初予定にはなかった地方の仏涅槃図の図様の広がりなどについて具体的に明らかになるような可能性も見えてきた。当初の予定とは異なるが、一定の成果が上がったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度となるが、引き続いて九州島内の涅槃図の実地調査を行うとともに、地方での図様に関する伝播状況などを仏涅槃図を用いて考察していきたい。また新出の福岡・開善寺の仏涅槃図に関しては調査結果をまとめ公表したいと思う。
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Causes of Carryover |
育児・妊娠などの影響で、遠方への出張がままならなかったため、近場の福岡県内の調査が主とした。そのため旅費が多くかからなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度行く予定だった場所への調査旅費として使用したい。
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