2015 Fiscal Year Research-status Report
上演における参与者の感情と行為―90年代京都のエイズをめぐる社会運動を事例として
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26770068
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
竹田 恵子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, リサーチフェロー (30726899)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 上演 / パフォーマンス / 情動 / 感情 / 社会運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究成果における「上演」に関する理論を実証に耐えうるものにするための理論的検討の結果、社会システム理論や社会運動論との接合により、「上演」概念を対面的相互行為だけでなく、時間的スパンを大きくしたイベントとしてとらえることとした。このことにより、その間に生産された言説(批評・インタビュー)等も研究に使用できることになり、上演の記録や観察、追試が困難であるといった難点を克服できる。研究手法としては質的な社会調査が適当であると判断された。 今年度は、政治学、社会運動論、感情社会学、カルチュラル・スタディーズ、神経科学における感情/情動に関する先行研究を概観し、「上演」理論に応用するための視座をととのえた。また、前年度の成果をもとに、時間的スパンを広く取ってインタビュー調査、言説分析、作品分析を行った。 感情と行動/行為における先行研究結果では、「怒り anger」が社会運動への参与等の行動を促進させるものとして代表的とされている。しかしながら、本研究では参与者から「怒り」の感情が聞かれることはなかった。むしろ自分たちがそれまで考えていなかった政治的領域に携わることができるのだ、といった「希望 hope」という側面が大きいということが判明した。また、調査対象者の語りには「語りえない感覚/衝動」が登場することも特徴的であった。その後対象者は芸術分野、HIV/AIDS政策において90年代京都に強く影響を受けた活動を行っていることがわかった。これは「怒り」や「悲しみ」等の言語に分節化される以前の「情動」(Gould 2009 の定義による)的側面であると考えられる。 今後は調査対象を増やし、上演参与者のどのような感情/情動がどのような行動/行為に結びつく傾向があるのか、さらに詳細な調査を行うこととする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、理論的検討および、対象者へのインタビューを活動的に行うことができたため、調査は順調に進んでいると考えられる。 ただし、成果のアウトプット(とくに文章でのアウトプット)が多少遅れているため来年度はそれを鑑みて、集中して執筆に励むこととする。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題に取り組んで3年目である来年度は、上演参与者のインタビューと資料調査に集中して取り組み、上演参与者のどのような感情/情動がどのような行動/行為に結びつく傾向があるのか、さらに詳細な調査を行うこととする。 さらに神経科学分野の先行研究より、感情システムと認知システムは別であるが非常に近いところにあることが判明した。これは、本研究で取り入れているニクラス・ルーマンのシステム論とも親和性がある知見である。 感情と認知が携わり、感情と認知が相互に作用しあいながら参与者を変化させていったと仮説がたてられるため、今後は認知と感情の関係性についての知見も参考にしながら、研究を進めていくこととする。
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Causes of Carryover |
公務が予想より多忙となり、海外での発表の機会が減り、旅費の使用額等が少なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度はアウトプットを集中して行うため、国際会議および学会での発表を計画的に行い、広く研究成果を世に問うことを目指す。
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