2014 Fiscal Year Research-status Report
映像文化史の構築:複合メディア環境におけるスクリーンの遍在を理解するために
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26770075
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
大久保 遼 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 助手 (60713279)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 写し絵・幻燈の調査 / データベースの公開 / 研究成果の刊行 / 展覧会の企画 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)写し絵・幻燈の調査:早稲田大学演劇博物館、江戸東京博物館、日本カメラ博物館等に所蔵されている写し絵・幻燈の調査を行い、19世紀から20世紀初頭のスライドと投影装置の特徴を分析した。また錦絵や歌舞伎の番付、幻燈の販売目録など関連資料の調査も行い、写し絵と幻燈というプロジェクション・メディアが同時代の視覚文化に与えた影響の大きさを、具体的な資料を通じて明らかにした。 (2)データベースの公開:演劇博物館所蔵の幻燈スライドについて調査した成果の一部は、演劇博物館デジタル・アーカイブ・コレクション内の「幻燈デジタル・アーカイブ」に反映させ、公開した。また今回、演劇博物館デジタル・アーカイブ室と協力し、デジタル化の方法を詳しく検討することで得られた、新たなスライドの整理や撮影の手法も一つの成果と言える。 (3)研究成果の刊行:平成25年度に受理された博士学位論文の成果と、平成26年度におこなった写し絵・幻燈についての研究成果を合わせて、青弓社より単著『映像のアルケオロジー:視覚理論・光学装置・映像文化』を刊行した。また演劇博物館での幻燈調査の成果を踏まえ、共編著『幻燈スライドの博物誌:プロジェクション・メディアの考古学』(青弓社)を刊行し、その成果を広く一般に公開することができた。 (4)展覧会の企画:平成26年度の研究成果をもとに、早稲田大学演劇博物館春季企画展「幻燈展:プロジェクション・メディアの考古学」の企画と展示構成を行った。平成26年3月までに展示資料の選定と図録の編集を終えた。また平成27年度以降、展覧会のオープンにより、研究者に限定されないかたちで研究成果をより広く一般に公開するとともに、研究成果を生かしたワークショップや、写し絵・幻燈の復元上映など、さまざまな形で成果の発信が行われる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
博士学位論文の成果に、博論以降に進めた調査で得られた知見を合わせて単著『映像のアルケオロジー:視覚理論・光学メディア・映像文化』(青弓社)を刊行した。
本書の中で、(1)19世紀転換期の映像文化が現代の映像環境を準備したことを示し、(2)「スクリーン・プラクティス」と「メディア考古学」の視座をベースにした「映像文化史」の方法を提示することができた。未だ対象は「19世紀のプロジェクション・メディア」に限定されるものの、本研究課題の目的は当初の計画以上に達成できたと言える。今後は現代の映像文化にまで射程を広げて、研究課題を進めて行く予定である。
また研究成果の公開の方法として、単著の刊行だけでなく、データベースの構築と公開、研究成果をベースとした展覧会の企画、共編著『幻燈スライドの博物誌:プロジェクション・メディアの考古学』(青弓社)の刊行などが実現した点も、当初の計画以上の成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題の推進方法については、以下の3点を予定している。
(1)写し絵・幻燈の調査継続と、連鎖劇の調査:平成26年度までに取り組んだ写し絵・幻燈の調査に加え、「連鎖劇」(明治~大正期に流行した演劇のなかで映画を上映する興行形態)の調査を進める。具体的には『映像のアルケオロジー』の成果に加え、フィルムセンターに保存されている連鎖劇フィルム関連資料、演劇博物館に所蔵されている連鎖劇の脚本、および当時の新聞、雑誌等に掲載された連鎖劇の上演記録から、実際の上演/上映を再構成していく。またとりわけ村山知義のトーキー連鎖劇(キノドラマ)の試みに焦点をあて、当時のメディア横断的な映像=演劇実践の系譜を調査する。 (2)写し絵・幻燈のプラクティスの復元:19世紀の映像文化の現代的な可能性を探るために、実際に当時の上映のプラクティスを復元し、上映を行う。とくに長年写し絵の復元上映に取り組んでいる劇団みんわ座と協力し、演劇博物館に所蔵されている「小栗判官一代記」の種板を復元し、説教節の語りと合わせて上映することを計画している。また当時の寄席における写し絵の上映スタイルを復元するため、落語との共演を行う予定である。 (3)現代の映像環境の分析:これまで19世紀転換期の映像文化を中心に行ってきた方法を、スクリーンが遍在し、映像の形態が多様化している現代にまで射程を広げ応用していく。具体的には、まず都市空間に遍在するスクリーン、音楽のライブ会場におけるスクリーンの使用、ミュージックビデオの多様な形態の3つの対象に注目して、研究課題を推進する予定である。
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Causes of Carryover |
年度末に211円を無理に使い切るよりは、次年度に繰り越して有効活用すべきと考えたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究用ノート等、必要物品の購入に使用する予定である。
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Remarks |
企画展「幻燈展:プロジェクション・メディアの考古学」は2015年4月1日からの開催だが、展示のwebサイト(http://gentou.org)による成果公開は、2015年3月からの開始である。
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